酒びたりの日々を送るジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は交通事故で胸から下が麻痺し、車いす生活になってしまう。更に酒に溺れるキャラハンだが、アルコール依存症の互助会に参加するうち、徐々に立ち直っていく。そして風刺漫画家として歩みだす。監督はガス・ヴァン・サント。
キャラハンの車いす生活や風刺漫画家としての開花と成功は、大きな要素ではあるもののあくまでサブストーリーであるように思った。軸になっているのはアルコール依存症からの立ち直りだ。彼がアルコールに溺れる原因はどこにあるのか、自分と向き合っていく様が、過去と現在を行き来しながら描かれる。そんなに劇的な構成ではなく、むしろ平坦にも見えるのだが、少しずつしか歩めないものである、(作中で言及されるように)回復に劇的な瞬間などないという所がポイントなのだ。一歩進んで二歩下がる、を延々と続けていく。
断酒会の様子がなかなか良い。ずけずけ物を言う人もどこか憎めないし、それぞれ事情がある中、時に失敗しつつも踏ん張っているのだろうと思える。会の“スポンサー”であるドニー(ジョナ・ヒル)は多額の遺産を相続し何一つ不自由ない優雅な生活を送っているように見えるし、ちょっと新興宗教の教祖的なうさんくさい雰囲気もある。しかし、彼がこの境地に辿りつくまでにはやはり苦しかったし、今もまた苦しいのだと徐々に見えてくる。終盤のキャラハンと彼とのやりとりは、彼がキャラハンに渡したかったものがちゃんと渡された、かつやはり「互助」なのだということを感じさせしみじみと良かった。
キャラハンの漫画は過激だという触れ込みで、あえて差別的な表現もしている。彼のガールフレンドはそれについてあっさりと「あなたは古い」と言い放つ。多分、今だったらもっと古く感じるだろう。彼の「過激さ」というのはそういうもので、表現も価値観も時代と共に常に変化していくのだと示唆される。このあたりは、キャラハンの表現を必ずしも全面的には肯定しないという、監督の倫理観なのかなと思った。
登場する人たちは基本的に皆いい人だ。困った奴、どうしようもない奴はいても悪人ではない。とはいえルーニー・マーラ演じるガールフレンドはあまりに理想的で天使すぎないかと思った。キャラハンの脳内彼女なのではという疑いを最後までぬぐえなかった。

ミルク [DVD]
ショーン・ペン
ポニーキャニオン
2009-10-21





八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ローレンス ブロック
早川書房
1988-10-01