ジョーン・リンジー著、井上里訳
 寄宿学校・アップルヤード学院の生徒たちは、ハンギングロックへピクニックへ出かけた。しかし巨礫を見に出かけた4人の少女と、彼女らとは別行動していた教師1人が行方不明になってしまう。必死の捜索が行われたものの手掛かりは得られず、事件は迷宮入りに。事件の噂は広まり、以来、学院では歯車が狂い始める。
 舞台は1900年のオーストラリア。いかにも良家の子女が通っている風の箱庭的なアップルヤード学院の世界と、だだっ広く人間を拒むような土地・風土の独特さが強いコントラストを生んでおり、不思議な雰囲気。これがたとえばヨーロッパを舞台にしていたら、全然違う雰囲気だったろう。人がいきなりいなくなっても不思議ではない、人間の入る隙がない感じなのだ。
 少女たちだけの世界は閉鎖的、箱庭的な親密さがあり、そこが魅力だと感じる人もいるだろう。箱庭は徐々に崩壊し、学院の人たちは外の世界にさらされていく。生徒からも教師からも今一つうとまれている学院長が、頻繁に亡き夫のことを思い出すのがなんだか切なかった。彼女にとっては夫といた時間こそ箱庭的な安心しているられる場所だったのではないかと。
 中心的な、美しく聡明な少女たちがいなくなったことで美しい小さな世界は終わりを迎える。崩壊のイメージもまた美しいかもしれないが、姿が美しい少女は心も美しく聡明で、見た目がぱっとしない少女は中身もぱっとせず人柄にも愛すべき部分が少ないという描写は、見た目偏重すぎて少々辟易した。なお百合の文脈で語られがちな作品だと思うが、貴族の青年マイケルと、彼の叔父の御者であるアルバートとの関係は微妙にBL感が・・・。この2人も少女たちの失踪に影響を受けるが、「崩壊」には至らず、むしろそれまでの身分や立場から自由になっていくという所が面白い。