1960年代半ば、酒癖が悪く大学を中退した青年ディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)は、恋人リン(エイミー・アダムス)に態度を改めないと縁を切ると迫られ、一念発起し大学を卒業、政界へ進む。下院議員ドナルド・ラムズフェルド(スティーブ・カレル)の下で働くうち、政界の裏と表を知り権力に取りつかれていく。ジョージ・W・ブッシュ大統領の副大統領として9・11後のアメリカをイラク戦争に導いたディック・チェイニーを描く。監督はアダム・マッケイ。
 非常にキレがよく人を食った作風で、マッケイ監督の腕の良さを実感した。登場する人たちは全員実在の人物、そして全員をdisりブラックユーモアで笑い飛ばす度胸の良さ。チェイニーとリンのカップルは正にマクベス夫妻(実際、シェイクスピア風セリフでやってみよう!というくだりがある)といった感じで、二人三脚で権力の階段を駆け上がる。何しろトップがボンクラ(全米公認でボンクラキャラの大統領ってすごいよな・・・これが民主主義の凄み・・・)なのでやりたい放題。マクベスみたいに人を殺さずに済むしな。イラク戦争へのかじ取りの動機がそんなことなのか!とぞっとさせられる。人間、簡単にモンスター化してしまうのだ。
 当初、頭が切れてスピーチが上手く、政治のセンスがあるのはリンの方だった。当時は女性の政治家の活躍など望めない時代だったので、リンは自分の望みをかなえる為にディックを一人前に仕立てあげるのだ。もしもうひと世代でも後に生まれていたら、リンはディックと結婚することなく自分が政治家として出馬したのではないだろうか。ディックは色々な点で運のいい人物だが、あの時代に生まれてリンと結婚できたことが最大の幸運だったのでは。夫婦2人で欲望を膨らませていく様は、おしどり夫婦と言えばおしどり夫婦。
 ディックにしろリンにしろ個人としては野心強すぎて全く好きになれないし自分の野望の為に手段は問わない卑怯さ、冷酷さを持ち合わせているが、よき夫、よき妻、よく親であると言う所が面白い。政治活動に後に娘も加わり、ファミリービジネス的になっていく。基本的に家族仲がいいのだ。同性愛者である娘を、自分の支持基盤から反感をかうとわかっていても受け入れ守っていく。妻の父親に対して家族を守るとはっきり表明するのも、親としてちゃんとしている。政治家としての顔との違いが人間の複雑さを感じさせる。とは言え、娘との関係は最後の最後で損なわれてしまうのだが・・・。ある一線を越えると政治家としての側面を選んでしまうのか。
 ナレーションが誰によるものか判明すると、「他人を食い物にする」ことをディックとリンが一貫してやってきたことがより明瞭に浮き上がる。本作に登場するのはそういう人間ばかりだ。まさにクズなのだが、彼らはクズであることを全然気にしない。ラムズフェルドじゃないけれど、理念なんて笑っちゃうぜというわけだ。

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