ニック(ティモシー・シャラメ)は成績優秀でスポーツも得意、大学への進学も決まり、父デヴィッド(スティーヴ・カレル)はじめ、家族は彼の将来に期待していた。しかしニックはドラッグに手を出し、どんどんのめり込んでいく。更生施設に入っても繰り返し抜け出し、再発を繰り返す。スティーヴとニックの8年間の格闘を描く。監督はフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン。
 時系列をシャッフルすることで依存症の一進一退なこと、ドラッグを断って再発してというループを何度も何度も繰り返す、その中で本人も家族も摩耗していくが、それを乗り越えていかないとならないということがわかってくる。とはいえ、ちょっと長すぎるし、長さに対して起伏が乏しいように思った。エンドロールも、気持ちはわかるけど5分越えはちょっとなぁ・・・。全体的に間延びしている感は否めない。
 スティーヴはニックのことを心から愛しているし、ニックも父親を慕っている。仲のいい父息子ではあるのだ。しかし、スティーヴは長らく、ニックについて自分は理解していると過信しているのではないかという思いがぬぐえなかった。宣伝でうたわれるほど美しい親子愛の物語とは思えないのだ。スティーヴはニックが厭世的な文学ばかり読んでいる、それよりも外に出よう、そういう趣味は一時的なものだと言う。これにとても違和感があった。ニックはスポーツも好きだが、一方でグラムロックやグランジロック、ブコウスキー等アウトサイダー寄りの文学を愛好している。人の好みに対して一時的なものだとか、ダメ出しするとか、親子であってもずいぶん失礼なことだろう。ニックにとってそれらが一時的なものだというのはスティーヴが勝手に思っているだけであって、実際のニックのことをちゃんと見ていないのではないか。ずっとまっすぐな道を歩んできた人には、陰の中にいる人のことはわからないんだよな・・・。
 スティーヴは息子の心の「穴」について多分本当には理解できない。愛していることと理解することとは違うのだ。また、愛しているから救えるというわけでもないだろ。スティーヴはドラッグを断てないニックとのやりとりに疲労困憊し、自分には救えないと一度は投げ出してしまう。それに対して彼の妻(ニックにとっては義母)が「救えないわよ!」とばっさりと切る。家族にできるのは救うことではなくそっと支え続けることだけ。それが延々と続くから本当にしんどいんだろうけど・・・。
 ニックがどういう経緯でドラッグに手を出したのか、具体的な原因があったのかどうかは明言されない。ニックは自分の中の「穴」を埋めたくて、と言うがそれがどういうことなのか自分でもはっきりとはわからない。当然、家族にもわからない。いい家庭環境でも、家族に愛されていても、依存症になってしまうことはあるのだ。なぜやめられないのか、という部分が父親にとってずっと謎なままで、それを受け入れていくことでしか親子の関係は前進しないのだ。

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