15歳のチャーリー(チャーリー・プラマー)は父(トラヴィス・フィメル)と各地を転々としている。家の近くの競馬場で、厩舎のオーナー・デル(スティーブ・ブシェミ)に声を掛けられ生活費の為に働き始めるが、競走馬のピートを可愛がるようになる。ある日、父がガールフレンドの夫に暴力を振るわれ、重傷を負い死んでしまう。施設に連絡されると聞いたチャーリーは、ピートを乗せたトラックを盗み、伯母が暮らすワイオミングを目指す。監督はアンドリュー・ヘイ。
 チャーリーはどこにいても所在なさげだ。冒頭、彼がトロフィー(何のトロフィーなのか後々わかってきて切ない)を窓辺に飾ったり、家の外に散らばっているダンボールを片づけたりする姿から、彼が生活をきちんとしたいという意思を持っていること、安心できる居場所としての「家」を欲していることがなんとなくわかる。しかし父親と共に各地を転々としており、落ち着いた「家」は持てずにいることも。父親はチャーリーのことを愛してはいるが、彼が望むような安定や安心感は与えられないのだ。チャーリーも父親のことを愛しているが、こと子供の保護者をやると言うことに関しては、愛だけでは不十分なんだよなとつくづく感じた。チャーリーは学校にも通っておらず、ネグレクトされていると言ってもいいくらいだと思うのだが。
 そんなチャーリーの居場所となるのが、厩舎での仕事だ。彼のピートへの思い入れは少々過剰にも思えるのだが、自分がケアする必要があり、自分のケアに率直に答えるピートの存在はチャーリーの拠り所になっていく。またデルにしろ騎手のボニー(クロエ・セビニー)にしろ、いささか雑ではあるがチャーリーのことを案じて手助けをする。
 とは言え、ピートはもちろん、デルもボニーも、またその後に関わってくる大人たちも、チャーリーのことを気にはかけるが、十分ではない。彼の保護者、彼の居場所になるには力不足だ。チャーリーは世の中のことを全然知らないまま世間=荒野に投げ出されてしまったようで、その旅路はおぼつかず非常に危なっかしい。チャーリーにはもちろん愛情が必要だが、より必要なのは具体的なケア、安心して得られる衣食住であり、教育だろう。とにかく具体的なものが必要なのだ。彼の姿はいつも所在なさげで痛々しい。彼がある場所で、学校には行けるか、フットボールはできるかと確認するが、そんなささやかなことが・・・と何とも切ない。そしてラストシーンの彼が一層幼く見えた。安心して年相応に見えるようになったのか、まだおぼつかないまま幼いということなのか、少し不安が残る。
 主演のプラマーがとても素晴らしい。不安を漂わせる微妙な表情の変化や、姿勢の変え方等とてもよかった。最後、それまでと顔つきが全然違うように見えるのでちょっと驚いた。

荒野にて
ウィリー ヴローティン
早川書房
2019-03-06