ピーター・ゴドフリー=スミス著、夏目大訳
心、意識はどのように生じてきたのか。哲学者であり熟練のダイバーでもある著者が、生物の進化を追いつつ、脊椎動物とは全く異なる頭足類、タコやイカの仲間の生態の観察から、生き物の心の存在を考える.
本著の冒頭で、原文のmindに「心」、interlligenceに「知性」、consciousnessに「意識」という訳語を当てていることが編集部により記されている。加えて、英語のmindは心の機能の中でも思考、記憶、認識という人間で言う所の主に頭脳の働きを想起させる言葉だと解説されている(なので本著内で言う「心」は英語での意味)。いわゆる日本語で言う「心の動き」とはちょっと異なるということだ。タコの「心」、精神活動についてもこの英語/日本語の差異と似たところがある。人間が想像するタコの精神活動はあくまで人間の視点によるもの、タコの精神世界はタコ独自のもの、タコの身体に基づいたものだという本著の内容が、この前置きに既に現れている。タコの知能が高いという話は聞いたことがあったが、本著によると思っている以上に頭がいい(ただ人間にとっての「頭の良さ」とはちょっと違う所もある)。映画『ファインディング・ドリー』で描かれていたタコの行動はちゃんと事実に基づいていたんだな・・・。基本群れない生き物だが条件によっては小さい社会のようなものを形成するという所や、好奇心旺盛で「遊び」的な行動も見せるという所は新鮮だった。彼らの知能は定型を持たない身体と深く関わっているらしいという点も。ガワが決まると中身も決まるという側面はあるんだろうな。