津村記久子著
 10数年働いた仕事で燃え尽きてしまった「私」は、職業安定所で「簡単な仕事」を紹介してもらう。紹介してもらったのはどれも「簡単な仕事」だが、少々風変りなものばかり。働くことを描く連作集。
 特定の人を観察する仕事、路線バス車内の広告アナウンスを作る仕事、豆知識について原稿を作る仕事・・・。こんな仕事実際にありそう、というものかこんな仕事ないだろう!というものまで、ちょっと不思議なお仕事小説。と言っても本作の焦点は仕事そのものではなく、仕事と人との関係、働くという状態の不思議さ、奇妙さにある。特定の場所に来て特定の作業を行う(そうでない仕事ももちろんあるが、本著に出てくる仕事はそういうものなので)、その対価をもらうという行動はもしかすると大分奇妙なのではと思えてくる。仕事にどの程度責任を持てばいいのか「私」が見失っていく様子は、少々ホラー的でもあった。また、仕事場での人間関係も奇妙だ。同僚という状況で出会わなければまず交流しなさそうな人たちと何となく付き合いが出来ていく。その人間関係が苦しくなることもあるし、親密「ではない」からこそ気楽なこともある。「私」がどういう人なのか、過去に何があったのか、徐々に見えてくる構成が上手い。仕事の中で壊れていく人もいるが、仕事の中で再生していく部分もある。でも、個人的には出来れば働きたくないですよ・・・正に「この世にたやすい仕事はない」のだから。


ディス・イズ・ザ・デイ
津村記久子
朝日新聞出版
2018-06-07