ブルックリンの名門私立高に編入したマイルス・モラレス(シャメイク・ムーア)はエリートばかりの校風に馴染めずにいた。本当はグラフィックアートの道に進みたいが、警官の父親は認めてくれない。ある日クモにかまれたことがきっかけで超人的な力を身に着けるが、コントロールすることができずにいた。そんな中、キングスピン(リーブ・シュレイバー)によって時空が歪められ、阻止しようとしたスパイダーマンが殺されてしまい、マイルスは現場を目撃する。更に時空のゆがみから異なる次元で活躍する様々なスパイダーマンたちがマイルスの世界にやってきた。マイルスはその中の一人、スパイダーマンことピーター・B・パーカー(ジェイク・ジョンソン)の助けを借りようとするが。監督はボブ・ペルシケッティ&ピーター・ラムジー&ロドニー・ロスマン。
 3DIMAX、字幕版で鑑賞。これは3DIMAXを推奨したい!とにかく映像が素晴らしく、3Dとの相性も非常にいい。今年を代表するアニメーション作品になると思う。画面の奥行、広がりを最大限活かした視界の広さと、その隅々まで構築されたビジュアルに圧倒された。色合いもビビッドで楽しい。本作、「漫画である」ことを強く意識した作りになっている。擬音のフォントが大文字で入るし、「スパイダーセンス」はちゃんとうねうね線(わかる人だけわかって・・・)で表現される。周囲の声が箱型の吹き出しで表現されたりもする。更に、全体的に印刷物風ないしはスクリーントーン的な細かいドットが入っていること、人物の影の部分は斜線が入っていることがクロースショットになるとわかるのだ。すごく手の込んだことをさらっと見せている。
 アニメーション表現の最先端でありながらアナログな表現法を踏まえているというハイブリッド感がとても面白い。登場人物の台詞にあるように「カトゥーンで何が悪い!」というわけだ。カトゥーンだからこそ、多次元世界から複数のスパイダーマンがやってくるという設定が生きている。別の次元だからキャラクタービジュアルの表現のされ方も違う。ピーターBとグウェンはマイルスの世界とほぼ同じだが、スパイダー・ノワールは紙のざらつきまで伝わってきそうな白黒漫画の人だし、ペニー・パーカーはより二次元的だし、スパイダー・ハムはまさに古典的カトゥーン。それらが同じ画面内で違和感なく共存しているというビジュアルのバランス感覚が素晴らしい。
 ストーリーは王道の少年の成長物語。彼に関わる大人、特に父親的存在がピーターBを始め、複数名おり、大人の多面的な姿が描かれているのもいい。ピーターBはだらしないが腐ってもスパイダーマンでやる時はやる。父親はマイルスをとても愛しているが、息子の成長と彼の愛情のあり方とがまだ摺りあわされておらず、関係がぎこちない。双方、気持ちはわかるけどそれはちょっと・・・的なやりとりに等身大の親子感があった。そして自由人に見えるクールな叔父はマイルスの憧れの存在だが、自由とクールは代償を伴う。
 学校で馴染めない、親ともちょっとぎこちないし自分がやりたいことを打ち明けられないマイルスの孤独感は、スパイダーマン(たち)の孤独に通じる。マイルスは一人で成長するのではなく、彼ら、そして他の世界のスパイダーマンたちの後押しがあって一歩進むことができる。
 一人で進むのではないという意味では、ピーターBも同様だろう。ヒーローをドロップアウトしやさぐれていた彼は、教え導かなくてはならないマイルスという存在に引っ張られ、スパイダーマンとして再び歩みだす。少年が成長するだけでなく、大人もまた少年に感化されて成長するのだ。

スパイダーメンII (ShoPro Books)
ブライアン・マイケル・ベンディス
小学館集英社プロダクション
2019-01-24


スパイダーグウェン (ShoPro Books)
ジェイソン・ラトゥーア
小学館集英社プロダクション
2017-03-15