中世のイタリア。山麓の村のはずれで暮らすアゴスティーノ(アンドレ・サルトレッティ)とニーナ(クラウディア・ポテンツァ)夫婦は幼い娘を亡くし、悲しみにくれていた。過酷な環境に耐え兼ね、仲間たちは山を去っていくが、アゴスティーノは留まり続ける。しかし町に行商に出ると、山の民に対する厳しい差別が待っていた。追い詰められていくアゴスティーノは、1人岩山をハンマーで叩き始める。監督・脚本はアミール・ナデリ。
 何かに取りつかれた人、異様な情熱に突き動かされていく人を描くという点ではナデリ監督が西島秀俊主演で撮った『CUT』と同様と言えるが、本作では更にクレイジーさを極めている。そして更にパワフル。山が動くって、そういう方向か!と唖然とする。ナデリ監督は(結果の出る出ないは別問題として)人間の意思の力に対して信頼感がある、あるいはこうでなければならないという信念を持ち続けているように思える。アゴスティアーノは情念に取りつかれて動いているという一面はあるが、同時にその動きは、自分を縛り付けるもの(の象徴)を打ち砕く為のもの、自由を手にする為のものでもある。おかしいのは世界の方だ!だからそれを変える!という強い怒りと意志がある。
 ナデリ監督作はどれも音の使い方がとてもいいのだが、本作も同様。山の底の方から響いてくるような、低い不協和音に満ちている。また、山の中にいるとよく聞こえる、虫や動物の声っぽいが正体がよくわからない音。これが聞こえると、すごく山っぽい。ほぼほぼ何の音かわかるのだが、たまにえっ何?!という音が混じってくるのだ。
 アグスティーノは、町ではいわゆる被差別民として扱われ、不吉な存在として忌み嫌われている。しかし、町の人たちのそういった態度が、彼を本当に「邪眼持ち」、理解しがたい存在にしてしまうのではないかとも思えた。祭壇前のロウソクを逆さにして火をもみ消すシークエンスには凄みがあった。ああこちら側とのつながりを全部捨てちゃったんだなと。

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西島秀俊
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2012-07-03


駆ける少年 [DVD]
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2013-09-28