バンクス家の長男マイケル(ベン・ウィショー)は家族を持つ父親に、長女ジェーン(エミリー・モーティマー)は貧しい労働者を援助する市民活動家になっていた。しかしマイケルは妻を亡くし、融資の返済期限切れで抵当に入れていた家まで失いそうになる。そんな彼らの前に、完璧な子守だったメリー・ポピンズ(エミリー・ブラント)が戻ってくる。監督はロブ・マーシャル。
 1964年のディズニー映画の20年後を描く、(ディズニー的には)正式な続編。リメイクや「別物」扱いではなく続編としたことは、結構勇気がいったのではないかと思う。ジュリー・アンドリュース主演の前作(ロバート・スティーブンソン監督)はミュージカルとしても、実写とアニメーションを合成したファンタジー作品としても高い評価を得ており根強いファンがいる作品。これの「続編」とうたってしまうと、全作のイメージを壊さず、しかし現代の作品としてアップデートし、かつ旧来のファンの期待を裏切らないように作らなくてはならない(加えて、私のように原作ガチ勢で1964年版も映画単体としては楽しいけど『メアリー・ポピンズ』シリーズの映画化作品と思っちゃうとちょっと・・・という人もいる)。しかし本作、このへんの問題はそこそこクリアしていたように思う。
 衣装や美術セットのデザイン、色合いがとてもかわいらしいのだが、まるっきり「今」の映画として作られていたらこういう色味は選ばれないのでは、というニュアンスがある。昔の映画の、ちょっと人工的でカラフルな色味だ。お風呂から出発する海の冒険のシーンなど、それこそ昔のミュージカル映画のレビューシーンのバージョンアップ版ぽい。技術も演出も現代の映画なのにどこかレトロさもある。このレトロ感と現代感の兼ね合いが上手くっていたように思う。またセル(風)アニメーションとの組み合わせも前作を引き継いでの演出だろうが、こんな面倒くさいことをよくもまあ(今アニメーションと合成するならもっと楽な方法があるのではと思う)!という絶妙な懐かしさ演出。
 音楽に関しても、前作の言葉遊びノリを引き継いだものでとても楽しい。ブラントもウィショーもこんなに歌って踊れる人だったのか!と新鮮だった。ただダンスに関しては、ブラントはリズム感の強いものはちょっと苦手なのかな?という気もしたが。ミュージックホールでの彼女はちょっと動きが重い感じがした。ダンスシーンで一番楽しかったのは点灯夫たちが歌い踊るシーン。前作の煙突掃除夫たちのダンスを踏まえてのものだろうが、自転車を使った動きは現代的。ショットの切り替えが頻繁なのは少々勿体なかった。舞台を見る様に引きで全体を見ていたい振り付けだったと思うんだけど。ドラマ映画としての見せ方とミュージカルとしての見せ方がどっちつかずになっていた気がする。
 メリー・ポピンズは子守、家庭教師であり、彼女が直接的に世話をするのは子供たちだ。しかし彼女が来たのは父親であるマイケルの為と言っていいだろう。子供たちは死んだ母親を恋しがってはいるが、死を受け入れられないわけではない。このあたり、マイケルが父親としてちゃんとしているんだろうなと窺える。マイケルは少々頼りないし時に子供の前でも取り乱すのだが、すぐにフォローを入れる。彼が子供に安心感を与えることが出来ていればおそらくこの一家は大丈夫なので、マイケルを助ける為にメリー・ポピンズが来るのだ。とは言え、抵当を巡るクライマックスの展開には、それが出来るなら最初からやればいいのに!と突っ込みたくなる。メリー・ポピンズが何に魔法を使うことを良しとし何には使わないという主義なのか、線引きがご都合主義だと思う。


メリーポピンズ スペシャル・エディション [DVD]
ジュリー・アンドリュース
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
2005-01-21