木工所を経営する哲郎(小林薫)は、川辺に倒れている1人の青年(柳楽優弥)を見つけた。自宅に連れ帰り介抱された青年は、シンイチと名乗る。哲郎はシンイチを木工所に連れて行き、技術を教え、共に暮らし始める。2人は徐々に心を通わせていくが、シンイチにはある秘密があった。監督・脚本は広瀬奈々子。
 訳有りの2人が絆を深め、疑似親子的な関係を形成していくというある種定番のドラマではあるが、それはあくまで途中まで。そこからの展開で冷や水を浴びせられる。ちょっと冗長な部分があるが、長編初監督作としては高いレベルで引きつけられた。監督はこの部分に興味があるんだろうなという、焦点がはっきりしていると思う。
 疑似親子的な関係は、哲郎にとってもシンイチにとっても過去の傷を癒すものになる。ただ、それはあくまでかりそめのものだ。ずっとこのままではいられない。彼らはそれぞれ、向き合わなければならない相手が他にいる。この点、かなりシビアに描かれていた。意外だったのは、若いシンイチに対してではなく、初老の哲郎に対する視線に容赦がない所。
 両親との不和、過去のある事件が原因となり心を閉ざしているとはっきり提示されているシンイチに対し、哲郎が抱えている問題が何なのか、何から目を背けているのかという部分はなかなか現れてこない。彼の息子が既におらず、そのことが傷になっているということはわかる。しかし、息子との関係がどんなものであったのかは、哲郎の言葉からはわかりにくいのだ。
 哲郎の問題がどこにあるのかは、婚約者からなじられるシーンではっきりとわかってくる。彼にとって息子のような存在であるシンイチとの絆は、目の前の現実から逃げる為のものになってしまったいる。シンイチ本人を見ているわけではなく、理想的な父と息子、師匠と弟子という幻想にしがみつく為のものだ。そして実の息子との不和は、彼のそういった態度によるものではなかったかと垣間見えてくる。しかし哲郎はシンイチに対して、実の息子にしたことと同じことを繰り返してしまうのだ。その時点で、疑似親子的な絆はかりそめのものであると決定づけられてしまったように思う。

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