1972年、南北共同声明が発表された。韓国は南北首脳会議に備え、北朝鮮の最高指導者・金日成の代役オーディションを密かに行う。オーディションに合格したのは、売れない役者ソングン(ソル・ギョング)だった。金日成という役になりきる為の厳しい訓練に耐えるソングンだが、彼の出番は結局なかった。そして22年後、心を病み自分を金日成だと信じ込むソングンは、父である彼に人生を狂わされた息子テシク(パク・ヘイル)と同居することになる。借金まみれのテシクは、実家の土地を売る為に実印を探していたのだ。監督はイ・ヘジュン。
 予告編だと父息子の感動ストーリーっぽいが、それはあくまで本作の一部だ(ということは、全貌を見せずにキャッチーな部分を抽出した良くできた予告編なんだと思う)。リハーサルを行う構想は実際にあったそうだが、金日成の代役を作るという荒唐無稽な設定のコメディである一方、ソングンが受けるオーディションや訓練は、不条理ホラーのように見えてきてかなり怖い。着地点がどこなのかがわからないのだ。そしてソングンの演技への執着、彼に取りついて離れない金日成という「役」の不気味さがじわじわくる。ソングンに演技を教える教授は、役者は役を飲み込み、その上で吐き出さないとならないと言う。演技には魔力があるのだろう。ソングンは演技の魔に取りつかれて冒頭で失敗し、その失敗を引きずるが故に更に演技の魔に取りつかれた人生を送る羽目になってしまう。テシクが、父が正気に戻る時間が増えると逆に不安になるというのがうすら寒さを感じさせた。正気でない状態が普通ってことだから。
 本作、笑いや涙があってもどうにも不気味だった。ソングンとテシクが辿る珍妙な人生の裏には、人1人の人生を道具扱いにする国家という存在がある。金日成の代役を立ててリハーサルをするという計画自体、冷静に考えるとそれ何か意味あるの?という気がするのだが、そういうことを平気で出来る存在だと言うことが、不気味かつ不穏なのだ。