1993年、シシリアの小さな村で、13歳の少年ジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)が失踪した。彼に思いを寄せていた同級生のルナ(ユリア・イェドリコヴスカ)は、ジュゼッペの行方を知ろうとあちこち訪ねまわるが、大人たちは一様に口をつぐみ、真相は伏せられたままだ。監督・脚本はファビオ・グラッサドニア&アントニア・ピアッツァ。
 実際にあった誘拐事件が元になっており、映画を見ている側にはジュゼッペの父親が何者なのか、ジュゼッペを待ち受ける運命がどのようなものなのか、おおよそわかってしまう。ことは既に起こってしまい、不可避なのだ。その不可避さに、ルナは一人で挑む。彼女のジュゼッペへの想いは強く深い。彼女の中ではジュゼッペが死ぬ世界は否定され、彼が生きる世界が構築されている。そのファンタジーは彼女を突き動かし、彼女の外側、周囲にもあふれ出てこようとする。両親や友人の言葉は彼女を思っての現実的なものなのだが、ルナにとっては自分の邪魔をする分からず屋たちということになるのだ。ルナの一途さ、頑固さにインパクトがある。演じるウェドリコヴスカの意思の強そうな表情が素晴らしい。彼女が主演でなければ、もっと弱弱しい作品になったのではないかと思う。
 ルナのファンタジーはジュゼッペと彼女自身を救う為のものだが、同時に、彼女の肉体を生と死のぎりぎりの境界にまで連れて行ってしまう。ファンタジーは身を守るものになるが、強すぎるファンタジーは「あちら側」、死へと当事者を連れて行ってしまうという部分は、ギレルモ・デル・トロ監督作品を思わせる。もちろんファンタジーのセオリーなわけだが。「こちら側」と「あちら側」への移動は水によって表現されている。異界への入り口として揺らぎのイメージがぴったりだなと思っていたのだが、ことの顛末まで見るともっとえぐい、救いようのない理由だったのかとわかって愕然とした。この救いのなさに対してせめて何かしらの救いを、という祈りが込められた作品でもあると思う。「こちら側」に戻ってきたルナがジュゼッペを忘れるのではなく、今も彼と共にある、そして2人は自由であると示唆されるラストが美しく切ない。
 ルナの両親の描写が面白い。特に母親の超然とした雰囲気は時に不穏でもある。理性的で現実的であり、ジュゼッペに夢中なルナに対して批判的だ。父親はいかにも田舎の(ちょっとモテそうな)中年男という感じなので、なぜこの2人が結婚したのか不思議なのだが、母親の言葉の端々から、結婚を悔いておりルナには同じ道を辿らせたくないという思いが見え隠れする。それはルナには通じていないんだろうけど。父親とのピクニックの際、2人して母親の手作り弁当を捨ててしまうのがおかしかった。そんなに不味いのか、たまにはジャンクフードを食べたいのか。

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