ヨークシャーで老いた祖母(ジェマ・ジョーンズ)や病身の父(イアン・ハート)に代わり、牧場を切り盛りし牛と羊を育てているジョニー(ジョシュ・オコナー)。父親は気難しく、ジョニーは深酒と行きずりのセックスで日々をやり過ごしていた。ある日、羊の出産シーズンを手伝う為に雇われた、ルーマニア移民の季節労働者ゲオルグ(アレック・セカレアヌ)がやってきた。最初は反発するが、ジョニーとゲオルグは急速に距離を縮めていく。監督はフランシス・リー。
 ゲイであるジョニーにとって、保守的な田舎町であろう故郷は決して自由な土地というわけではないだろう。とは言え、彼は牧場の仕事を「クソだ」といいつつも心底嫌ってはいないように見える。車で街に出たら行きずりのセックス相手くらいは見つかるみたいなので、ゲオルグの故郷の状況とはおそらく大分違うのだろう。今までのセオリーだったらこれは故郷を出ていく話になりそうだが、そうはならないところに時代が(多少なりとも)変わってきたんだなと実感した。旅立つ話は、それはそれで素敵だけど、自分(達)にはこの土地があると思えるのも素敵だし希望がある。祖母も父も、ショックは受けるがセクシャリティを理由に彼を糾弾したり追い出したりはしない。デリカシーがあるのだ(この点は、田舎か都会かというよりも、個人レベルの差異のような気がするが)。『ブロークバック・マウンテン』からここまで来たか・・・。セクシャリティに対する情報量が全然違うもんな。選択肢は確実に増えているのだと思いたい。
 冒頭、ジョニーが嘔吐しているシーンで、トイレの便座にカバーがかかっていたり、バスルーム内がこぎれいだったりと、彼が生活面ではきちんとケアされて育ってきたのだろうことが垣間見える。祖母が家の中をちゃんと切り盛りしているのだ。その年齢で服の用意までしてもらってるなんてちょっと甘えすぎ!という気はしたが、いわゆる荒れた家庭環境で育ったというわけではないんだなとさらっとわからせる見せ方だった。それでも現状のジョニーは大分荒んでいるように見える。彼の荒み方は父親との関係の険悪さ、自分をセクシャリティ込みで理解してくれる身近な人がいない孤独から来るものだろう。
 その荒んだ部分がゲオルグによってやわらげられていく様に、なんだかぐっときた。最初の接触は緊張感が漂い過ぎていて、セックスなのか殴り合いなのか、どちらに転ぶのかわかりかねるようなピリピリ感がある。しかしその後、ジョニーがゲオルグに急に甘える様や身の委ね方には、それまで見せなかったリラックス感がある。ちゃんと思い思われている感じが出ているのだ。ゲオルグの相手に対する配慮の仕方とか、生活をちゃんとしようという姿勢(食卓に花を飾るとか料理をするとか)も、気持ちを和らげさせるものだろうし、ジョニーにとっては救いのようだったろうなと。
 ジョニーの振る舞いは無骨だが根の繊細さが垣間見えるもの。鳥の声の使い方が彼の中の繊細な部分を表しているように思えた。籠の中の鳥(ジョニーは多分鳥好きで飼っているんだと思う)の鳴き声だったものが、どこか外界でさえずる鳥の鳴き声に変わる。

ブロークバック・マウンテン [Blu-ray]
ヒース・レジャー
ジェネオン・ユニバーサル
2013-09-25