香奈(黒木華)と結婚し幸せな新婚生活を送る田原秀樹(妻夫木聡)の会社に、「知紗さんのことで」と伝言を残した来客がいた。取り次いだ後輩社員はその来客の顔も名前も思い出せず、突然出血し倒れる。知紗とは香奈が妊娠している子供に付けるつもりの名前だった。2年後、秀樹の周辺で奇妙な出来事が起こり始め、身の危険を感じるようになる。友人の民俗学者・津田(青木崇高)からオカルト専門フリーライターの野崎(岡田准一)とその知人で霊能力のある比嘉真琴(小松菜奈)を紹介してもらう。原作は澤村伊智の小説『ぼきわんが、来る』、監督は中島哲也。
 中島監督作品は大概シネフィルに嫌われがちだが、今回は特にキッチュなビジアル、かつぎゅうぎゅうに要素を詰め込み盛りが良すぎるくらい。音楽も多用すぎるくらい多用しており見た目も音も余白がない。野暮と言えば野暮だしMVにしか見えない部分もある。しかしエンターテイメントとしては予想外に楽しかった。予告編ではあまり期待していなかったのだが、テンポがよく飽きさせない。
 序盤、秀樹が香奈を実家の法事に同行する、そして2人の結婚式、新居でのホームパーティという流れがあるのだが、自分内の「あっこれ耐えられない」メーターの針がすごい勢いで振り切っており、今年一番の映画内不愉快シチュエーションだった。映画の登場人物にこんなに殺意を感じたのは初めて。もちろんこの不愉快さは監督や俳優の意図したもので、そういう意味では非常にすぐれた作品だろう。本作のキモは何かが追ってくるという所にはなく、そのへんにいそうな人たちの気持ち悪さ、不愉快さにあると思う。
 秀樹はルックスはいいし愛想もいいし、ぱっと見友人が多くて人望もあって、という万事うまくいってそうな人なのだが、実は薄っぺらくパフォーマンスのみで中身を伴わない。法事の席でよそ者として不安を抱える香奈への配慮が全くなく、適当に大丈夫大丈夫という姿(香奈の膝をぱしぱし叩く動作がむかつく!あれやられると本当にイラっとするんだよなー!)には無神経さ・思いやりのなさ(というか的外れさ)がもろに出ている。また結婚式やホームパーティーでのこれみよがしなはしゃぎっぷりと、それに白けつつ表面上は同調する友人たちの姿は、正に地獄絵図。絶対にこの場に交じりたくないと思わせる見事な演出だった。
 キャスティングが手堅く、妻夫木のクズ演技は最早鉄板。見事だった。また、柴田理恵や伊集院光など、本業が役者でない人の使い方が上手く、いいアクセントになっている。特に柴田理恵は柴田理恵史上最高にかっこいい柴田理恵だった。そして松たか子の面白そうなら何でもやりますよというスタンスに感銘を受けた。だってキャリア的には全然やらなくていい仕事だもんなこれ・・・。