アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ著、ヘレンハルメ美穂&鵜田良江訳
 連続銀行強盗で逮捕、収監されたレオは殺人の罪を負うサムと出会う。彼はレオを逮捕したヨン・ブロンクス警部の兄だった。ヨンへの憎しみ、そして「兄」であるという共通項で繋がった2人は、「存在しないものを奪う」強奪事件を計画し、出所と同時に実行へと踏み出す。レオの動きはヨン・ブロンクス警部の知るところとなるが、そこにはレオの仕掛けた罠があった。
 ノンフィクションだった前作『熊と踊れ』の続編だが、本作は完全なるフィクション。「存在しないものを奪う」というプラン、そしてその中のある仕掛けの派手さはなるほどフィクションぽい。しかし「絆」に対するレオの執着と情念は前作から引き継がれているものだ。レオの家族への拘りは、最早妄執に見えてくる。弟たちの心は父からもレオからも、彼らの稼業からも離れつつあることが彼にはわからない。その傾向は子供の頃からあったが、レオは自分が見たいものしか見ないのだ。犯罪者としては非常に冷静で明晰なのに自分と兄弟のことについては目が開かれていないというのが、ちょっと怖い所でもあるし痛ましい所でもある。弟たちの心は彼から離れつつあるのに・・・。
 兄弟に対して目が開かれていないという点では、実はヨンも同様だと言える。冷静な刑事だったヨンが情念に駆られてどんどん逸脱していく様はこれまたちょっと怖い。レオもヨンもあったはずの何かを取り戻そうとしているのだが、それは本当にあったものなのか?あったつもりになっているだけではないのか?と思わずにいられない。それこそ「存在しないもの」だったのではと。そして情念に飲み込まれていく彼らと相対する、新登場人物の刑事エリサの怜悧さが光っていた。

兄弟の血―熊と踊れII 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2018-09-19


兄弟の血―熊と踊れII 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2018-09-19