ジョー・ネスボ著、鈴木恵訳
 少数民族サーミ人が住む、ノルウェーの北部。極北のこの地を大金と銃を持った1人の男が訪れた。ウルフと名乗る男は素性を隠し身をひそめるが、教会の堂守をしているサーミ人の女性レアとその幼い息子と心を通わせていく。しかしレアには漁業に出たまま戻らない夫がおり、ウルフへの追手も迫っていた。
 著者の『この雪と血を』と地続きの作品で、共通の登場人物もいるし作品の雰囲気も似ている。とは言え独立した作品なので、続けて読む必要は特にないだろう。本作の主人公ウルフ(自称)は金の為に殺し屋になろうとするが、果たせずに北の地へ逃げる。人が逃げるのってやっぱり北方がしっくりくるのだろうか(自分が逃亡者だとしても北に逃げそうだな)。独自のコミュニティを形成しているサーミ人たちの暮らしぶりと、非常に厳しそうな自然環境の描写が相まって、世界の果て感が強い。現地に住んでいる人たちにそんなこと言ったら怒られるんだろうけど・・・。蚊の多さと強靭さの描写にはぞっとするのだが、それでも自然描写には魅力があった。
 ウルフはすごくタフなわけでも頭が切れるわけでもなく、銃の扱いにも不慣れという所が新鮮。殺し屋と言う柄ではないのだがやむにやまれず後戻りできない道を進んでしまった。レアにもまた、やむにやまれぬ事情がある。彼女を縛るのは男尊女卑の文化で、こんな聡明で強い女性がそんな目に遭うなんて!と憤懣やるかたない。そんな2人が非常にささやかな所から想いを通わせあう様子はいっそ微笑ましいくらいで、殺伐とした背景とのギャップがあるのだが、状況が寒々しいからこそささやかなものが美しく見える。
 なお、本作の時代設定はいつぐらいなのかな?ビートルズやストーンズの話題が出てくるところから60年代か70年代だと思っていたのだが、だとすると「まじで」という台詞はおかしいんじゃないかな(当時は「まじで」って言葉使わなかったんじゃない?)。

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)
ジョー ネスボ
早川書房
2018-08-07


その雪と血を (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョー・ネスボ
早川書房
2018-11-20