犯罪集団の盗品や収益金を狙って「タタキ」を繰り返すサイケ(高杉真宙)、カズキ(加藤諒)、タケオ(渡辺大知)は少年院で知り合いチームを組むようになった。親からも社会からも見捨てられた彼らには、窃盗以外に生活の手段がない。ある詐欺グループを狙って大金入手に成功したものの、犯行がバレ、後戻りできなくなる。原作は鈴木大介・肥谷圭介による同名漫画。監督は入江悠。
 サイケたちがやっている「タタキ」は窃盗なので当然犯罪なのだが、楽して金を手に入れようとしているわけではない。楽天的なカズキとタケオはともかく、情報収集に余念がないサイケは努力家で勤勉といっていいくらいだ。いわゆる不良とはちょっと違う。彼らは安定した職に就くためのベース自体がない。家族がいないと保証人を得にくいので住居の賃貸契約ができない、なので固定住所を持てないし、学校にも行っていないので履歴書段階で普通の採用では落とされる。スタートラインにすら立てないという苦しさだ。一方、せめてレースに出場して上の奴らを食い物にしてやる、というのが詐欺集団側。詐欺集団の「番頭」加藤(金子ノブアキ)が部下たちに仕事の心得を叩き込むのだが、その内容も若者の貧困ありきのもの。話のベースに経済的な貧困プラス家族関係の貧困があるあたりが現代の作品だなぁと思う。貧しくてもつつましく暮らす仲の良い家族、という設定はもうフィクションとしてのリアリティ(って変な言い方だけど)を持たないのかもしれない。経済的な貧困がもたらす負の連鎖が実社会にありすぎるもんなぁ・・・。
 サイケたちには頼れる親はいないし、カズオは明白に親から虐待されていた。彼らが少女ヒカリ(伊藤蒼)を行きがかり上保護してしまうのも、彼女が虐待されていたからだ。家族に対していい思い出はないはずなのに(いやだからこそか)、自分たちで疑似家族的なものを作って自己補完していくサイケたちの姿は、なんだかいじらしい。それでも親を憎めないとカズキが漏らす言葉も切なかった。なおヒカリの最終的な処遇についての判断がいたってまともで、ちょっとほっとする。
 シリアスとコメディのバランスが良くて、テンポよく進むし、出演者の演技も良く、当初見る予定はなかったのだが、見てよかった。東京フィルメックスのイベントで、入江監督とアミール・ナデリ監督の対談があり、ナデリ監督が本作をいたく気に入っていたので興味が出たのだ。ナデリ監督は本作の狂気、クレイジーさは、他の国の若手の作品ではあまり見ないタイプ、コミックの影響かな?と言っていたけど、正直なところそれほど狂気は感じなかった。マンガっぽい演技や演出のことなのかな?と思ったけど、ちょっと違う気がするしな・・・。こういうのがスタンダードになっていて自分が見慣れちゃっているということかな?