第19回東京フィルメックスで鑑賞。古びた映画館で働く映写技師の若者は、ある映画を上映する度に幻想に引き込まれていく。映画館でフィルム上映をする最後の日、またその映画を上映する。映画に登場するのはヴィンテージファッションショップ店員の青年と、店の客である少女。青年は少女の落し物であるスマートフォンを届けようとするが、彼女はどこかに消えてしまった。監督はアミール・ナデリ。
青年が撮影スタジオの倉庫らしき空間でさまよう冒頭のシークエンスからして引き込まれるし、最後のフィルム上映を行う映画館という舞台にしても、映画愛に満ちている。映画の映画、という点では監督が日本で撮った『CUT』にも通ずるが、方向性は全然違う。本作はナデリ監督こういうのも撮るんだ!というくらいロマンティックだ。上映後のティーチインによると、溝口健二監督の霊に背中を押されて撮ったとか(ナデリ監督は溝口監督の『雨月物語』を絶賛している)。
 作中作である映画の中の出来事と、その映画を見ている映写技師の世界とが、並列して描かれる。しかし映写技師がしばしば自分のインナーワールドに引きずり込まれ、今どの世界線にいるのか、彼は夢を見ているのか覚めているのか段々わからなくなってくる。今、この世界線とあの世界線が交差した!と実感できる瞬間、それこそ映画的な瞬間と言えるのではないだろうか。
 とは言え、本作を見ている観客側にとってはどちらも映画であるのだが。映画の映画は、映画を愛するものにとっては一際愛着がわくものだが、切なくもある。どんなに映画を愛してもその愛は一方通行だからだ。映画を見ている私たちは、映写技師とは異なり映画の一部になることは出来ない。

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