アメリカで一般人15人が死亡する自爆テロ事件が起きた。犯人はカルテルの手引きによりメキシコ経由で不法入国したと政府は睨み、CIAへ任務を課す。CIA特別捜査官マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)は、カルテルに家族を殺された過去を持つアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)に協力を仰ぐ。麻薬王レイエスの娘イザベル(イザベラ・モナー)を誘拐して敵対組織の仕業と見せかけ、麻薬カルテル同士の争いへ発展させる計画を秘密裡に実行するが。監督はステファノ・ソッリマ。
 前作はドゥニ・ビルヌーブが監督だったが、ソッリマに交代。また前作は音楽をヨハン・ヨハンソンが手がけたが、彼が亡くなったことで弟子筋のヒドゥル・グドナドッティルが担当という、引き継ぎが相次ぐ案件だった。しかしさほど前作の雰囲気から外れていない。ストーリーテリングからはビルヌーブの奇妙かつ粘着質な手癖が薄れストレートになったが、音楽の雰囲気はびっくりするほど引き継がれている。個人的にはむしろ本作の方が好きかもしれない。三部作構想だそうなので、次作もちゃんと作られると嬉しい。
 前作は捜査官が異世界に迷い込み、アレハンドロが歩む煉獄を垣間見るような構造だったが、本作でもアレハンドロは相変わらず煉獄を歩き続けている。そして課された任務のせいで地獄度がより高まっている。行っても行ってもまだ地獄!そして帰る場所などないのだ。一方、マットもまた地獄を歩むことになる。上司から責任を丸投げされ、自分の仲間も倫理も切り捨てろと迫られる。政府の高官からCIAの責任者へ、そしてエージェントへとどんどん責任を丸投げされていく過程が悪夢のようだ。投げてくる側は気楽なもんだよな!中間管理職としてのマットの苦しみが辛い。また、麻薬王の娘として生まれたイザベルは、本人の意思とは関係なく、修羅の道を歩むことになる。そもそも選択肢がないのだ。不遜な態度だった少女が、終盤で見せる抜け殻のような表情が痛ましかった。
 本作でのデル・トロはもはや人間ではないような、一度死んで何か別の者としてこの世に戻ってきたかのような、胡乱かつ不気味な存在感を放つ。ラストにはしびれた。洋画の邦題というと映画ファンからは非難されるケースが多いが、このシリーズに関しては的を得ていると思う。全員が何らかのボーダーを越える、あるいは越えない瞬間を捉え続けているのだ。そこを越えたら元には戻れない、という緊張感がみなぎっている。


犬の力 上 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ
角川書店(角川グループパブリッシング)
2009-08-25