トランプのアメリカ合衆国大統領当選が確定し、勝利宣言をした2016年11月9日を題名としたドキュメンタリー。『ボウリング・フォー・コロンバイン』でアポなし激突取材のインパクトを残したマイケル・ムーア監督の新作だ。ムーアは大統領選の最中から、このままでトランプが当選するのではと危惧していたが、その通りになってしまった。トランプ当選にはどのような背景があったのか、アメリカの今を追っていく。
 過去にブッシュ政権を批判した『華氏911』(2004)と対になった題名だ。しかしトランプに比べるとブッシュはまだしも政治家だったなと遠くを見る目をしてしまう現状があまりに辛い。現実が冗談を越えてきている。
 本作、トランプ批判かと思いきや、トランプよりも民主党の施策の方向への批判の方が痛烈。大統領候補選でのバーニー・ダンダースに対する民主党のあまりの仕打、サンダース浮かばれないわ!ヒラリーを推したいのはわかるが、そういう工作をするのはだめだろ・・・。共和党にしろ民主党にしろ、政治家が向いている方向がおかしいのではないか?というのがムーアの主張だろう。アメリカが傍から思われているよりもリベラル寄りだよというアンケート結果は、調査対象の分母選択の問題があるので何とも言えないけど、言うほどいわゆる保守というわけではないという面はありそう。問題は、そういったガチガチの保守ではない、トランプの政策にさほど同意しない層が選挙に行かなかったという所にある。アメリカは日本とどっこいどっこいの投票率の低さなのだ。
 政治への無関心や諦めを招き、ひいては現状を招いたのが、近年の政治だろう。民主党支持者が全てが経済的に富裕層というわけではなく、同時に共和党支持者全てが労働者層というわけではもちろんない。中間層が大半なわけだが、その中間層、さほど裕福ではない普通の労働者の意思を反映できる政治家・政党がなかったのだ。政治家が大企業と富裕層、ようするにお金の方ばかりを見るようになった最悪の事例として、ミシガン州の町、フリントで起きている汚水問題が取り上げられる。ディストピアSFもかくやという嘘みたいに極端な話であっけにとられた。フリント市の財政難がそもそもの原因とは言え、行政がまともに機能していないなんて・・・。
 そんな中、現行の政治に対してNOを突き付け、なんとかしようと団結する人たちが出てくる。無力感と根拠のない希望は民主主義の敵、ファシズムの元なんだなとつくづく思った。作中で紹介される、誰もやらないなら自分がやると立候補する新人議員たちや、教員たちのストや、銃規制を訴えるティーンエイジャーたちのデモ(これは日本でも結構報道された)等、こういう運動がちゃんと起こる所がアメリカのタフさだろう。見ていてちょっとぐっときてしまう。
 ムーア監督のドキュメンタリーは先に結論ありきで作られている向きが強いので、ドキュメンタリーの手法としてはちょっとどうなのとは毎回思う。とは言え、「今のアメリカ」と関わり続け他人事にしない、常にマウンドに立ち続ける姿勢はやっぱりえらいなと思う。

華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]
ドキュメンタリー映画
ジェネオン エンタテインメント
2004-11-12


マイケル・ムーア、語る。
マイケル・ムーア
辰巳出版
2013-10-24