死刑囚専門の教誨師である牧師・佐伯(大杉漣)は、6人の死刑囚と面談をしている。教誨師とは受刑者の道徳心の育成や心の救済につとめ、彼らが改心できるように導く存在。しかし自分が話したいことばかり話す者、佐伯との会話がすれ違うばかりの者もおり、自分の言葉が相手に届いているのか、佐伯は自信が持てずにいる。監督・脚本は佐向大。
 大杉漣の初プロデュース作であり、主演作であり、遺作であることで評判になった本作だが、むしろ死刑と向き合う刑務官の葛藤を描いた『休暇』の脚本家が監督を務めた作品ということで重要なのではないかと思う。ほぼ佐伯と死刑囚たちの面談シーンのみで構成されており、実質的な2人芝居であるパート、しかもショットが顔に集中しているパートが長い。俳優に相当技量がないと、間が持たなさそうなのだ。そこを緊張感途切れさせず演じ切る俳優の力を実感できる作品。どの人も顔の圧が強かった。カメラがほぼ面談室の外に出ない(佐伯の回想シーンや終盤でちょっと屋外に出るくらい)というかなり思い切った構成。ぱっと見地味だが力作で見応えあった。
 殆どの囚人たちはキリスト教に帰依する気があるようには見えず、対話が成立しているとは言い難い日とも。むしろ相手の不可解さ、全くの他者であるという部分がどんどん強くなる。理解や共感を拒む存在として彼らはそこにおり、むしろ人間同士はそういうものではという諦念が生まれそうになる。佐伯はその諦念を越えようとしているわけだが、囚人たちを前にするとなかなか難しい。饒舌な女性や無口な男性の、表出の仕方は違うが自分の世界に籠っている、自分の都合がいいようにしか他者を見ない(ということは他者がいないということか)姿の異質感が強烈だった。言葉が全く届かない感じなのだ。信仰以前の問題だなと言う徒労感がすごい。
 佐伯は牧師として人徳にあふれているというわけではなく、特に頭が切れるというわけでもなく、弁舌爽やかというわけでもない。むしろ面談相手の問いの一つ一つに躓き、揚げ足を取られることもある。決して器用ではない。しかし彼が相手を説得してしまうような巧みな言葉を持っていたら、教誨師ではなくなってしまうだろう。佐伯はある境地に辿りつくが、彼はその境地を少々陳腐な言葉でしか表現できない。それでいいのだ。しかしその境地の後、改めて彼を殴りつけるようなラストが襲ってくる。その不穏さが素晴らしかった。

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2013-05-25