ケン・リュウ編、中原尚哉他訳
 巨大都市・北京は貧富の差により三層に分割されている。24時間ごとに世界が回転・交替し、建物は空間に折りたたまれるのだ。各層間の行き来は厳しく規制されているが、第三スペースに暮らす労働者・老刀(ラオ・ダオ)は第二スペースから第一スペースへ密かに届け物をするという仕事を請け負う。郝景芳による表題作を含む、7人の作家による13作品を収録したアンソロジー。ケン・リュウが選出・英訳した。
 中国SF、幅広いし奥深いな!俄然興味がわいてきました。収録されている作家のうち6人が1980年代生まれという若さなのだが、巻末に収録されたエッセイを読むと、「中国の」という独自性に囚われない若いSF読者・作家層が育ってきたことで一気にSFの土壌が豊かになった様子。収録作はハードSFから幻想譚寄りのものまで、バラエティに富んでいる。収録作は社会階層が固定化されたディストピアものとしての息苦しさを感じさせつつ、「折りたたみ都市」という奇想が鮮やか。同じディストピアものでも、オーウェル『1984』へのオマージュである馬伯庸『沈黙都市』はもっと救いがない。異界ファンタジー風で美しいが寂寥感漂う夏笳『百鬼夜行街』、一見王道SFかと見せかけ途中からバカミスならぬバカSFか?と思い始めた所、ある人物の血みどろの戦いでもあり、そういう面では中国戦国ドラマ感ある劉慈欣『円』も面白かった。