10年前は人気レスラーとして絶頂期にあった大村孝志(棚橋弘至)は、怪我の影響で第一線に戻れず、現在は悪役覆面レスラー・ゴキブリマスクとしてリングに上がっていた。息子の祥太(寺田心)は父親の仕事を知らず、「大きくなったら教える」と両親から伝えられていた。しかしひょんなことから、ゴキブリマスクが孝志だと知ってしまう。祥太は恥ずかしさから、クラスメイトに父親は人気レスラーだと嘘をつくが。原作は板橋雅弘・吉田尚令の絵本。監督は藤村亨平。
 私はプロレス門外漢なのだが、奇をてらわず実直に作られた作品で、ベタはベタなのだが思いのほか楽しめた。作中のプロレスラーは本職のレスラーの人たちが演じているので、プロレス場面は(素人目には)説得力がある。棚橋アイドル映画とも言えるのだが、孝志の妻・詩織役の木村佳乃を始めとする脇役の手堅さ、寺田心の子役としての鉄板演技も作品を支えている。棚橋も意外と好演。演技が上手いというわけではないが、やはり見られる職業の人、スターとして第一線で活躍してきた人はカメラの前でのハマり方が違うのだろう。様になっている。また、ゴキブリマスクの相方であるギンバエマスクこと寄田を演じた田口隆祐は、俳優業でもいけるのでは?という存在感があった。
 本作の良い所は、孝志の「わるもの」=ヒールという職業を否定しないところだろう。ヒールがいてこそのプロレスで、ヒールにはヒールの矜持がある。だからこそ、マスクを取った弘志に対して寄田は怒る。寄田は根っからのヒールで自分の仕事にプライドを持っているのだ。孝志がヒーローに転向して復活すればめでたしめでたし、というわけではないと断言している所がよかった。
 

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2005-04-22