テルアビブに暮らすミハエル(リオル・アシュケナージ)とダフナ(サラ・アドラー)夫婦の元に、息子ヨナタン(ヨナタン・シライ)が戦死したと言う知らせが入る。ショックでダフネは寝込み、ミハエルは軍の煮え切らない対応に苛立つ。しかし戦死は誤報だったと判明。激怒したミハエルは息子をすぐに呼び戻せと軍に要求する。一方、ヨナタンは前哨基地の検問所で、何も起こらない単調な日々を送っていたが。監督はサミュエル・マオス。
 原題はFoxtrot。作中で言及されるように「同じ場所に戻ってくる」ダンスのステップだ。人間は生きている限り踊り続けるしかないしステップを踏み続けてもどこにも行けないという、大分皮肉な題名。人生で何が起きるかはわからず、起きたことには抗いようがない。翻弄されるだけだ。
 とは言え、これは言うまでもないことなので、「運命のいたずら」をこんなに持って回った見せ方をする必要はあったのかは疑問。ミハエルたちが陥ってしまう事態は決して自分のせいではなく、かといって何か・誰かのせいとも断言できないあやふやかつ理不尽なもの。でも、人生で起きる殆どのことってそういうものでは?という気がしてくる。
 理不尽な戦死の知らせとその撤回、何もなさすぎから一転してシュールに見えるヨナタンの日常のパートは、スタイル先行というか作為が鼻につくと言うか、正直ちょっと飽きてしまった。ただ、後半のミハエルとダフネのパートは印象に残った。何かが起きた後、既に取り返しがつかなくなった後でないと、その時の感情、幸福に気付かないことが往々にしてある。気付く為に支払うものが大きすぎる!とは言え、過去を振り返ることでミハエルとダフネがもう一度向き合えたようにも思う。娘は「2人は一緒にいる方が似合う」と言う。そう上手くはいかないだろうけど、何かの糸口は見える気がするのだ。


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2011-01-07