藩の不正を訴えた為に妻と共に藩を追われた瓜生新兵衛(岡田准一)。病に倒れた妻・篠(麻生久美子)は、死ぬ前に新兵衛にある願いを託す。その願いとは、新兵衛の旧友で、彼が追放された原因にも関わる榊原采女(西島秀俊)を助けてほしいというものだった。采女はかつて篠との縁談があったが、家柄の違いを理由に母親が猛反対し破談になったのだ。妻の願いをかなえるために藩へ戻った新兵衛は、過去の事件の真相に関する情報を得ていく。原作は葉室麟、監督は木村大作。
 非常にオーソドックスなメロドラマ時代劇という印象。男性2人と死んだ女性による三角関係だが、死者には勝てない、何を言ってもかなわないのだ。篠が他の登場人物と比べるとアイコン的すぎるというか、絵に描いたような幸薄く美しい妻という感じで浮いている。これは演技プランや演出のミスではなく、男性たちの記憶の中で彼女が純化されすぎ、幻想の女みたいになっているということではないだろうか。本当の彼女はどういう人だったのか、最後まで見えてこない。あくまで新兵衛の記憶の中の彼女、采女の記憶の中の彼女なのだ。
 新兵衛は篠に対して負い目があるのだが、冒頭のやりとりではお互いに非常に大事にしあっている夫婦という印象を受けるので、客観的にはそんなに負い目を感じる必要はなかったように思える。とは言え当事者としてはそうは思えないのだろう。篠の願いのみならず、新兵衛は自主的に死者による枷をどんどんしょい込んでいるように見える。こういう人は「生きろ」と言われてもそれはそれでしんどいのだろう。「生きろ」という言葉自体が呪いになってしまうという業のようなものが、話のベースにあるように思う。
 話の進め方自体は割と無骨というか平坦なのだが、随所で映される山や林等、風景が美しい。これで結構間が持つ。更に、殺陣が始まると画面が一気に凄みを増す。岡田准一はなんだかすごいことになっているなと唸った。正直アクション以外の演技はやや単調なのだが、殺陣での動きの速さ、動と静の切り替えのブレの少なさ等、メリハリの付け方が素晴らしい。新兵衛の剣術の姿勢は腰の位置がかなり低く、采女の姿勢と比べるとちょっと奇異にも見えるのだが、剣豪としての動きに説得力があった。これは、監督も撮影するのが楽しかっただろうなぁ。エンドロール、岡田が「殺陣」としてクレジットされているのにも唸った。どこへ行きたいんだ・・・。
 出演者はベテラン勢が安定しており、危なげがない。ただ、「時代劇演技」の出力に少々個別差があったように思う。「形」としての固め方がまちまちな感じ。その中で、若手の池松壮亮が少々浮いて見えてしまったのは残念。単品で見ると好演だが、周囲とそぐわないと言うか。

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