堀江敏幸著
 曇りの日には散歩をする。ぼんやりとした空の下、歩く速度で見る世界を綴る。
 随筆とも小説ともつかない短文集。晴天というわけでも悪天候というわけでもなく、曇り空を題名にしているだけあって、明でも暗でもなく、何かを断定するわけでもない、曖昧さに徹する姿勢が一貫している。どこが入り口でどこが出口なのかわからなくなってくるが、散歩とはそもそもそういうものだったか。明言しなさは作中で言及される土地や人物、文学作品などにも及んでいる。素養のある人にはこれがどこなのか、誰なのかわかるのだろう書き方だが残念ながら私にはわからないものが殆ど・・・。しかし曖昧さに貫かれた作風の中に時折、言葉が強くなる部分がある。本作は雑誌『東京人』の連載をまとめたものだが、連載期間中に東日本大震災があった。震災後、怒りを覚えること、それを表明しなければならない状況が増えたのだろう。その部分に著者の倫理観が見える。

曇天記
堀江敏幸
都市出版
2018-03-24


坂を見あげて (単行本)
堀江 敏幸
中央公論新社
2018-02-07