映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画の撮影をしている。そこに本物のゾンビが襲来。監督の日暮隆之(濱津隆之)は大喜びで撮影を強行するが、スタッフは次々にゾンビ化していく。監督・脚本は上田慎一郎。映画専門学校ENBUゼミナールのワークショップ、「シネマプロジェクト」第7弾として製作された作品。
 いかにも低予算、自主制作風の画質の悪い映像で始まり、これこの先どうなるんだろうなー大丈夫かなーと思っていたら、後半戦がすごかった。ゾンビ映画であってゾンビ映画ではない!ネタバレを避けようと思うと非常に表現しにくいのだが、前半戦/後半戦構成で、前半戦の解説が後半戦で行われると言えばいいのか。あの時のタイミングの不自然さ、意図がわからない演出などには、そういう理由があったのか!と唸り、爆笑した。解説として納得できるということは、脚本が良くできていて伏線に齟齬が少ないということだろう。前半のみだとさほど面白くない(30分以上の長回しという驚異的なことをやっているのだが、映画ファン以外にはあまりフックにならないよな・・・)というのが難点なのだが、これが後半への振りになっているので、ちょっと退屈だなと思っても、なんとか持ちこたえてほしい。パズル的な面白さがあり、内田けんじ監督の『運命じゃない人』あたりが好きな人ならはまるんじゃないだろうか。逆に、こういう「答え合わせ」的演出は野暮だという人には今一つ届かない気がする。
 後半の面白さは「答え合わせ」だけでなく、映画に限らず何かを製作する時の苦しみと喜び、そして父親の悲哀がよく描かれている所にもある。勝手なクライアント、無責任なプロデューサー、無駄にプライドの高い俳優やちゃっかりとしたアイドルなど、少々カリカチュアしすぎなきらいはあるが、「仕事」として監督業をこなす日暮が振り回されていく様はおかしくも哀しい。そんな「速い、安い、ほどほど」で作家性など皆無な日暮だが、いつもの雇われ仕事だったはずだが、ある瞬間からスイッチが入って、その範疇を越えていく様にカタルシスがある。また、彼が仕事を受けた動機は姑息といえば姑息なのだが、父親が成人した娘にいい恰好出来るのってこれくらいかもなぁと苦笑いをしてしまう。だからこそ、彼と娘が同じ方向を見て走り出すことに泣けるのだ。
 自主制作や不出来なアート系作品にありがちな内輪ノリや自己満足的な演出があまりなく、普段映画をあまり見ない人が見ても面白いように作っているのも良い。基本自主制作なので、予算故のビジュアルのチープさは否めないが、チープでも作品としてチープに見えないように工夫されていると思う。自主制作ということを言い訳にしない志の高さ(公開されてからの監督を始めスタッフ一同の営業努力も凄まじいし、ちゃんと黒字にしようという意思が感じられる)。

運命じゃない人 [DVD]
中村靖日
エイベックス・ピクチャーズ
2006-01-27