堀江敏幸著
 私の一族の頭には小さな正方形の穴が空いている。一生に一度、激しい頭痛と共に無名の記憶がなだれ込んでくるのだ。祖父の言葉を手がかりに、私は「色」呼ばれる現象に思いを馳せる。18編の小説を収録した短編集。
 これまでの著者の短編小説集とはちょっと色合いが異なる。抑制された語り口はいつも通りだが、幻想的な色合いが濃い。そしてどの短編も、どこか死の匂いがする。特に表題作はその傾向が顕著だ。一度終わった世界、更に縮小し終わりつつある世界を描いているように思えるし、言及されている内容からすると明らかに震災以降の世界と呼応している。失われたものの記憶の受けてが“私”の一族なのかもしれないが、彼らには自分たちが受け取ったものが何を意味するのか正確にはわからない。読者にはその記憶はあの時代のあの場所、あの出来事だと察しが付くのだが、その歴史は儚く失われていく。世界の黄昏を感じさせる、陰影深い作品集。

オールドレンズの神のもとで
堀江 敏幸
文藝春秋
2018-06-11


堀江 敏幸
新潮社
2018-07-28