コルム・トビーン著、栩木 伸明
 教師をしていた夫を病気で亡くした46歳のノーラ・ウェブスター。学生である長女と次女は家を離れているが、ローティーンの息子2人はまだ目を離せない。生活の為21年ぶりに会社に復職し、かつての同僚からの嫌がらせを受けつつも仕事に慣れていく。労働組合活動に共感し、音楽への愛着を思い出し、自分なりの生活を築いていく彼女の3年間を描く。
 ノーラは自分が気難しいとか強いとかとはあまり思っていない。夫を亡くして途方に暮れており、子どもたちとも親密とは言い難いと感じている。しかし周囲からは、彼女は結構頑固で、時にとっつきにくいとも思われているようだ。三人称語りながらノーラ視点のみで描かれるので、あくまでそういう様子が見え隠れするということなのだが、実の姉妹からも時に距離を置かれる、親族の中でどうも彼女はちょっと異質らしいぞという様子が窺えることが面白い。更に、ノーラは子供を愛しているがお互いに適切に理解しているかというとそういうわけでもないし(お互い様である)、時にすごく面倒くさかったり疎ましくも思う。自分が思う自分と、(家族であっても)他人が思う自分は違うし、母、妻という役割には嵌まりきらないのだ。ノーラは他人にどう思われるかということを、だんだん気にしなくなっていく。すごく逞しい、生活力があるというわけではないが、自分に出来ることをちゃんとやろうとする様、そして出来ることをやっていくうちに、「未亡人」ではなく「ノーラ・ウェブスター」としての立ち位置を発見していく様が清々しい。普通に生きることの悲喜こもごもと面白さがある。
 個人的なことではあるが、ノーラの姿が自分の母親と重なり、ちょっと平静でいられないところがあった。ノーラと同じく専業主婦だった母も、父が亡くなった後こんな気持ちだったのだろうかと。私と弟は父が亡くなった時に丁度ノーラの長男次男と同じくらいの年齢で、彼らに輪をかけて面倒くさい子供だったので、ノーラの不安と苛立ちを目にするたび何か申し訳ない気分になった。