E.M.フォースター著、加賀山卓朗訳
 凡庸な少年時代を送ったモーリスは、ケンブリッジ大学に進学。学舎で聡明で博識なクライヴと知り合い、お互いに深い親しみと愛情を感じるようになる。モーリスは体が触れ合ううちに想いを募らせ、クライヴも愛の言葉を口にするが。
 新訳がとても読みやすく理解しやすいのでお勧め。青春小説としてこんなに面白かったんだなと新鮮だった。モーリスはどちらかというと俗人で知的好奇心が強い方ではないし、作中でも何度も鈍いと評されている。新しい知識、世界に積極的で感性豊かなのはクライヴの方だ。2人の学生生活はまさに青春!という感じでキラキラしており、恋愛の高揚感に満ちている。とは言え、この時代、同性愛は罪悪と考えられており、法的にも処罰された。先進的に見えたクライヴがやがてキリスト教的な罪の意識から逃れられなくなり、コンサバに見えたモーリスがそのあたりに無頓着になっていく逆転は面白いが切ない。モーリスはやがて同性を愛する自分を「治療」しようとまで思い詰めるが、最後には自分が同性愛者であることを受け入れていく。彼の苦しみの半分は時代によって規定された規範によるものだが、自分自身を受け入れていくという部分では普遍的なものがあるかもしれない。
 また、イギリスの階級社会を描いた作品としての側面もある。ここでもモーリスとクライヴの考え方の逆転が起きており、モーリスが旧来の規範や階級を突破していく(そういう意欲があるということではなく結果的にそうなってしまうのだが)人物だという印象が強まる。とは言え、労働階級の生活をモーリスが理解しているというわけではなく、アレックに対する呼びかけも世間知らずとしか言えないのだが・・・。その甘さがモーリスという人の特徴なのだろう。

モーリス (光文社古典新訳文庫)
E.M. フォースター
光文社
2018-06-08


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ヒュー・グラント
ハピネット・ピクチャーズ
1998-11-21