エイドリアン・マッキンティ著、武藤陽生訳
 12980年代の北アイルランド。片腕を切断された男性の死体が発見された。無くなった片腕の代わりに現場には別人の片腕が残され、更に体内からはオペラの楽譜が見つかる。刑事ショーンはテロ組織の粛清に見せかけた殺人事件ではないかと疑う。彼の疑いを裏付けるように、「迷宮」と記された犯人からの挑戦状と思しき手紙が届く。
 80年代北アイルランドではIRAを筆頭に武装勢力が乱立、紛争が日常茶飯事になっており、殺人と言えばテロや組織間の抗争、粛清によるものと相場が決まっていた。ショーンが遭遇したような政治的背景が見えない「普通」の殺人事件の方が優先順位が低いという、特殊な時代背景が本作の肝。テロの脅威の前には殺人犯逮捕という正義の執行は霞んでしまう。捜査に慣れていないショーンたちの捜査はかなり危なっかしいし、警察としてもそこに労力を割きたくないという本音が見え見えなのだ。また、ショーンはカソリックなのだが、周囲がプロテスタントの中カソリックとして生きる、しかも警官であるということがどういうことか、緊張感が肌感覚で伝わってくる。当時を舞台にした映画で、車を出す前に底を確認する(爆弾が取り付けられていないか確認する)という動作を見たことがあったが本当に毎回やってるんだな・・・。
 ショーンは聡明とは言い難く(最近のミステリ小説ではなかなか見なくなった推理のへっぽこさ)、どこかふらふらと定まらなくて暴走しがち、様々な面でゆらぎの大きい人物なので、読んでいる間中心もとない。本作単体でというよりも、シリーズとしての展開が期待できそう。音楽や映画などサブカルチャーへの言及も多く、当時を体験した人ならより楽しめるのでは。


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マイケル・ファスベンダー
ギャガ
2014-10-02