人気作家の松村淳子(中山美穂)は、母親同様に50代で遺伝性のアルツハイマー病に侵されていた。自分の思考がはっきりしているうちに小説以外のこともしようと、大学講師として教壇に立つことにする。ある日、学生らと行った居酒屋で、韓国人留学生チャネ(キム・ジェウク)と知り合い、犬の散歩や原稿の文字起こしを手伝ってもらうことに。監督・原案・脚本はチョン・ジェウン。
 監督自ら原案・脚本も手掛けており、結構力を入れたやりたかった作品なのだと思うが、日本公開された『子猫をお願い』の印象が強い身からすると、えっこういうのやりたかったの・・・?と、戸惑いを隠せない。キュートでありつつも苦味の強かった『子猫~』に対して、本作は多分に少女漫画的なメロドラマで、とてもロマンチック。主演の中山がまた妙に可愛らしくて、言動からもあまり貫禄、落ち着きがある女性という役柄に見えないのも一因か(衣装を含め、本当に可愛いのよ・・・)。全体的にふわふわしている。作中小説がこれまた典型的メロドラマのようで(そういう作品主体に書いている人気作家という設定みたいだからしょうがないんだけど)、あまり面白そうじゃないのがちょっと痛い。朗読される小説の文には、特に魅力がないんだよね。
 ただ、美しくオブラートでくるんだ中にも、文章を書く、自分の思考を整理していくことが生業の人がそれをできなくなっていく、無秩序な世界に突入していくことに対する怖さは滲んでいる。当人には徐々に何が起きているかすらわからなくなっていくという所が残酷だ。また、トイレから出てきた淳子のボトムのファースナーをチャネがそっと上げるシーンが堪えた。いつも身ぎれいにしている人がそういう風になるというのが辛い。淳子がやがてチャネを遠ざけようとするのも無理ない。一方的な行為に見えるかもしれないけど、やっぱりそういう姿を若い恋人には見られたくないし、介護させたくないよな・・・。愛があればなんとかなるってものじゃないから・・・。


子猫をお願い [DVD]
ベ・ドゥナ
ポニーキャニオン
2005-01-19