ニュージャージーに住む23歳のパティ(ダニエル・マクドナルド)はバーテンダーで生計を立てつつ、音楽で成功することを夢見てライムに磨きをかけていた。フリースタイルバトルで相手を喝破し仲間とCDも作るが、母と祖母を抱えた生活は厳しい。そんなある日、パティの元にオーディションに出場するチャンスが舞い込む。監督・脚本はジェレミー・ジャスパー。
 パティは自分の容姿をバカにされ、母親のこともバカにされるが、自身のライムで這い上がっていく。ホワイトトラッシュの話、加えて関係性に問題がある母娘の話ということで先日見た『アイ、トーニャ』を思い出しもしたが、本作の方が(完全にフィクションだし)希望がある。最大の違いは、パティには自分を肯定してくれる存在、祖母がいるということだ。「お前はもう(自分にとっては)スターだよ」と祖母だけは言ってくれるし、彼女がやっていることも、彼女の友人たちのこともバカにしない。おそらくパティは、理由もなく殴られたら自分が悪いとは考えないだろう。自身に対する基本的な肯定感があるのとないのとだと、人生大分違ってくる気がする。
 パティの母親は昔はセクシーで大層モテたんだろうなという雰囲気の人だが、その頃の自己イメージから抜け出せていないように見える。自分の夢を諦めざるを得なかったという後悔、こんなはずではなかったという思いから酒浸りになっており、それを嫌がるパティとの仲も険悪だ。こんな母親嫌だ、母親のようにだけはなりたくないという一方、バーの男性客たちに母親をバカにされるのは耐えられないというパティのうらはらな気持ちが痛切だった。それを踏まえているので、オーディションでパティが披露するステージには胸が熱くなる。彼女は自分を肯定すると同時に、母親の夢も救い上げるのだ。
 なお、パティとバンドメンバーでもある親友ジェリ(シッダルタ・ダナンジェイ)、バスタード(ママドゥ・アティエ)との関係の描写がとてもいい。男女の間にも友情はあるし、カップルの関係はフェアだ。このあたりは非常に現代的だなと思った。最近見たキスシーンの中では一番きゅんとくるものがある。そういえば、二輪車二人乗りシーンのある映画は打率が高いという自論を持っているのだが、本作でもそれが証明された。

8Mile [DVD]
エミネム
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
2003-09-26