ハンブルグでトルコ移民の夫ヌーリ(ヌーマン・アチャル)と幼い息子と暮らすカティヤ(ダイアン・クルーガー)。しかし爆発事件によりヌーリと息子が死亡してしまう。事件の捜査が進み、ネオナチのドイツ人男女が容疑者として逮捕された。カティヤは正義が行われることを信じ、弁護士のダニーロ
(デニス・モシット)と共に裁判に臨むが。監督はファティ・アキン。
 題名に「二度決断する」とあるが、あれかこれか選んで決断するというよりも、この人にはもうこの道しか残されておらず、その道に準じる決断をするという、選択肢のないものに思えた。周囲から見ればそうではなくても、当事者にとっては他の方法が考えられない。これがとても辛い。
 録画した映像の中で、あるいはカティヤの記憶の中で、家族の楽しげな姿が何度も再現される。また、事件に遭う前のヌーリと息子とカティヤとの関係が、短い時間の中でも生き生きと感じられる。更に、事件後の裁判では、ただでさえ辛い中、ヌーリの犯歴を持ちだされたり、カティヤ自身の薬物使用歴を持ちだされ証言能力を疑問視されたりと、被害者のはずなのに人格を貶められるようなことをされる。カティヤが「決断」に至るまでのパートが結構長いのだが、その長さと密度から、彼女が心の平穏を得るには「決断」するしかなかったのだという結論に至るのだ。
 裁判中のカティヤと舅姑、自分の母とその恋人、また友人とのやりとりには緊張感があり、悲しみを癒しあうという感じではない。カティヤの煙草を吸うペースが速くなり、友人の赤ん坊に対して微妙な表情を見せる所など、細かい所から彼女の憔悴と苦しみが窺える。彼女の苦しみは、この苦しみを共有できる人がいないという所にもある。親族や夫と懇意であった弁護士ももちろん悲しんでいるのだが、カティヤが抱えるものとはやはり違うのだ。周囲に支えられても一人きりであるという、孤独の深さが印象に残る。

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