1980年5月の韓国。民主化を求める大規模な民衆デモが起こり、光州では軍が戒厳令をしき、報道も規制されていた。ドイツ人ジャーナリストのマルゲン・ヒンツペーター(トーマス・クレッチマン)は取材の為光州へ向かう。彼を送迎することになったタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は報酬欲しさに機転を利かせて検問を突破。何とか光州市街へ辿りつくが。監督はチャン・フン。
 近年、光州事件(と当時の時代背景)を題材にした韓国の文学、映画等が目につくようになったが、映画や小説の題材としてがっぷり取り組むことができるくらいに時間がたったということなのだろうが。何にせよ、自国の負の歴史を再検証し、かつエンターテイメント作品に落とし込める所に韓国映画のタフさ、成熟度を見た感がある。本作、本国でも結構な動員数だったそうなので、映画を見る層の厚さとリテラシーがそもそも日本と違う気がする・・・。
 戒厳令下の光州が舞台で、非常にシリアスな背景なのだが、人情ドラマとして、活劇として、まさかのカーアクション映画として面白かった。もうちょっと短くてもいいなとは思ったのだが(マンソプの動線設定に無駄が多いように思う)、サービス精神旺盛なエンターテイメントだと思う。史実(ヒンツペーターは実在の記者)を元にしているが、絶対にここはフィクションだ!という部分がクライマックスにあり、その絶対にフィクションな部分が本作の核になっているように思った。そこでやっていることは映画としてのフィクションなのだが、彼らの気持ちは当時実際にいた市井の人々の気持ちと同じことなのではないだろうか。
 マンソプは政治には興味がなく、光州のデモについても、学生ならデモなんてやらずに勉強しないと親不孝だと言う(そもそも報道規制がされており電話も遮断されていて光州の実情が外部にはわからないのだが)。「韓国は世界一住みやすい国だ」と言う彼が光州で見たものは、その「世界一住みやすい国」が市民に何を強いているのかという現実だった。どこかの変わった人達の反乱ではなく、自分と同じように普通に生きてきた人が、これはおかしいと声を上げていたのだ。一刻も早くソウルに戻りたがっていたマンソプだが、光州の出来事が彼の中で他人事ではなくなっていく。この他人事ではない感覚、映画を見ている側にとっても同じなのではないかと思うし、そこを狙って作られた作品だと思う。



光州5・18 スタンダード・エディション [DVD]
イ・ジュンギ
角川エンタテインメント
2008-12-05