大学を卒業したものの進路が定まらないトーマス(カラム・ターナー)のアパートの隣室に、W・F・ジェラルドと名乗る中年男性(ジェフ・ブリッジス)が越してきた。トーマスはどこか風変りなジェラルドと親しくなり、人生のアドバイスも受けていく。ある日、トーマスは父イーサン(ピアース・ブロスナン)がフリー編集者のジョハンナ(ケイト・ベッキンセール)と浮気していると知ってしまう。トーマスはジェラルドに背中を押されてジョハンナに近づく。監督はマーク・ウェブ。
 冒頭、ガールフレンドのミミ(カーシー・クレモンズ)に海外留学すると告げられた時のトーマスの反応に、こいつしょうもないな!と思ってしまった。自分のことばっかりで、ミミがどう思っているのかは後回しなのかと。彼女との関係を曖昧なままにしていたり、父親に浮気をやめろと切り出せなかったり、ジョハンナにも父と別れろと言いきれなかったりと、彼の行動は煮え切らない。そんなのさっさと言っちゃえばいいのに!と少々呆れるが、彼にとっては扱いあぐねる問題ばかりなのだろう。彼が抱える問題をどうにかしようとすると、他人の領域に踏み込むことになる。その領域に踏み込む勇気が彼にはまだない。いかにも若造なのだ。
 そんな若造が大きく成長する、自主的変化するというわけでもなく、周囲の変化に巻き込まれていく、流されていくことにより人生が変化していく。人生ってそんなものじゃないかな、という気分がする。本作、思いがすれ違う人たちがしばしば登場するが、そこはすれ違ったまま、流されていく。でもそれによって個々の人生がダメになるかというと、そんなことないだろう。
 トーマスの青春というよりも、トーマスと父親の物語としてとてもよかった。イーサンは一見、若い美女と浮気するチャラい中年。しかし、彼は大きな勇気をもって今の生き方を選んだとわかってくる。これはブロスナンが演じているというのが一つのフェイクになっていて、いいキャスティングだった。問答無用でチャラさを感じさせるブロスナンもすごいのだが。ここぞという時に逃げてしまう人、踏みとどまれる人がいるが、トーマスは今まで逃げてしまう人だったんだろう。もちろん逃げていい時もある。どこで逃げないか、という所にその人の人となりが見えるのかもしれない。
 トーマスとジョハンナの顛末は出来すぎに見えるのだが、本作が誰によって、どのような形で語られているか考えると、そのファンタジー性(というかムシの良さ)も頷ける。現代が舞台だがスマホが殆ど出てこない所が面白かった。サイモン&ガーファンクルやルー・リード、ボブ・ディランの音楽と相まって60年代、70年代的な雰囲気を感じる。これも語り手の属性故か。なお選曲がとてもいい。マーク・ウェブ監督はどの作品でも音楽の趣味がいいな。

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