ドン・ウィンズロウ著、田口俊樹訳
 ニューヨーク市警内でも最もタフで優秀で悪辣なことで知られるマンハットン・ノース特捜部、通称「ダ・フォース」を率いるデニー・マローン刑事は、銃や麻薬の取り締まりにより地域の安定を図る刑事の王だった。しかしドミニカ系麻薬組織の手入れでのある行動をきっかけに、彼の転落が始まる。
 マローンは非常に優秀な刑事だが、本作における優秀さは悪辣さと一体となっている。額面通りの正義では麻薬組織や武器商人には対抗できない。しかし、彼らは闘ううちに後戻りできない領域に入ってしまう。越えてはならない一線があったのではなく、一歩一歩自主的に泥沼にはまっていったことに自分でも呆然とするのだ。特に後半はマローン転落の一途といった感じで実に陰鬱だが、マローンに同情して陰鬱になるのではない。最初まっとうな志を持っていても、力を持つと人は堕落していく、警官だろうが政治家だろうが犯罪者だろうが同じだと突きつけられるからだ。マローンは街の為、正義の為に行動しているつもりでいるが、彼の行動ははたからみたらギャングとたいして変わらない。街や正義の為だという言い訳がきかない所まで彼は来てしまったのだ。マローンが愛した街、愛した人たちが彼を逃げ場のない所に追いやってしまうというのが辛い。そこから逃げ出せるくらい彼が悪人だったら、もっと軽い話になっていたのだろう。

ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)
ドン ウィンズロウ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-03-26


ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)
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2018-03-26