河野裕子著
 歌人である著者のエッセイ集『みどりの窓の家から』を全編収録、加えて未収録だった21編と共に新編纂したエッセイ集。
 家族と共に約2年間、アメリカで生活した時期の諸々を中心に綴られている。子どもたちがみるみるうちに成長していく様が随所に感じられる。英語が流暢というわけではない著者にとってアメリカでの生活は大変なものでもあったろうが、子どもたちが現地に適応していく様を面白がり、自分とのギャップに時にたじろぐ。夫と息子の距離感、自分と子どもたちとの距離感との違い、やがて子どもたちとの関係が友人のようになっていく様等、一家の生活の変遷を見ていく感も。家族が一緒にいられる時間は有限で、だからこそ輝いて見える。べたつかず素直な言葉で綴られており好感が持てた。短歌の印象とはまたちょっと違うのだ。平静な筆遣いで湿っぽくない文章だが、最後に収録された表題作からは、苦しく葛藤した時期もあった様子が垣間見える。
 なお、土地柄(ワシントンDC郊外らしい)なのかそういう時代だったのか、現代のアメリカよりも大分おおらかで開けた気質が感じられる。それでも牛乳パックに行方不明児童の写真がプリントされていたりと、ある面での治安の悪さを身近に感じさせる部分もあった。本当に外を歩くということ自体ないんだなぁ・・・。