ボリショイバレエのダンサーだったが事故でダンサーとしての道を絶たれたドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)は、ロシア政府の諜報機関に加わり、セクシャルな誘惑や心理操作を駆使するスパイ「スパロー」になる訓練を受ける。彼女はやがて才覚を認められ、CIA捜査官ネイト・ナッシュ(ジョエル・エドガートン)に近づき彼がロシア内に持っている情報源を特定するという任務を命じられる。監督はフランシス・ローレンス。
 ドミニカもナッシュも、意外と手の内をお互いに見せていくのだが、どこが工作でどこが本気なのか、二転三転していく。スパイ映画というよりも、政治的な、また個人同士のパワーバランスの転がり様を見ていくような作品だった。本作、面白いことは面白いのだが今一つ気分が乗り切らなかったのは、パワーバランス、力を巡る話だったからかもしれない。ドミニカは母親を人質に取られるような形で、スパイになる以外の選択肢を奪われる。叔父は彼女に対して支配力があると言える。スパイ養成所で叩き込まれるのは、相手をコントロールする方法で、それも相手に対する力の行使のやり方だ。ドミニカが「実演」するように、相手の欲望を見抜くことが弱点を掴むことにもなる。そしてもちろん、ドミニカにしろナッシュにしろ、組織、国家という力に支配されており、そこから逃げのびることは難しい。ナッシュは(ロシアと違い)アメリカは人を使い捨てにしないというが、それは嘘だよなぁ・・・。相手を支配することによる力の奪い合いって、見ているうちにだんだん辛くなってきてしまい楽しめない。コンゲームにおける裏のかきあいとは、私の中ではちょっとニュアンスが違うんだろうな。
 しかしその一方で、ドミニカがいかに自分を保っていくかというドラマでもある。この部分は序盤から徹底しており、少々意外なくらいだった。彼女は様々な名前、姿、身分を使い分けるが、常に自分であり続け行動の意図がブレない。彼女のありかは国でも組織でも特定の個人でもなく、自分だけなのだ。ある意味スパイ映画の対極にある映画な気もしてきた。ジェニファー・ローレンスのキャラクター性が強すぎて、そっちに役柄が引っ張られているような気もしたが。

レッド・スパロー (上) (ハヤカワ文庫 NV)
ジェイソン・マシューズ
早川書房
2013-09-20



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2018-04-03