タイラー・ディルツ著、安達眞弓訳
 ロングビーチの高級住宅街で、下級議員の息子ベントン三世の妻と幼い子供2人が殺害された。妻の遺体は拘束された上切り裂かれており、強盗から政治がらみの怨恨まで様々な動機が考えられるものの、決め手に欠ける。重傷による休職から復帰したばかりのダニーと、相棒のジェンは捜査に奔走する。
 シリーズ2作目。事件自体は独立しているのだが、ダニーの状態が前作の出来事から引き継がれているので1作目を読んでから本作を読むことをお勧めする。1作目は地味な刑事小説という感じで若干フックに欠けたが、本作は展開がよりスピーディ。特に序盤の動かし方が上手くなっており引きが強い。ダニーは過去の記憶に由来する心の痛みだけではなく、肉体的な痛みにも苦しめられる。その痛みを図るのが「ペインスケール」なのだ。
 残忍な事件だが、事件の背景には被害者はそういう扱いをしてもいい存在だと思っている人がいるという現実があり、それがやりきれない。前作の被害者にも、彼女が男性だったら受けないような仕打を受けた過去があったが、本作にもその要素はある。そもそもそんなことでこの惨劇か!という真相なのだが、「そんなこと」と思えないほど価値観がずれてしまった人がいるということだし、事件の発端から全ての歯車がずれていたとも言えるのだ。その為すっきりしない後味なのだが、警察の仕事を描いているという意味ではこれもありか。