千雲寧(チョン・ウニョン)著、橋本智保訳
 拷問の技術に絶対の自信を持つ男、安。組織の中核で「アカ」を取り締まる彼は、拷問の痕跡を残すことなく、多くの市民に肉体的、精神的苦痛を与えてきた。しかしそれまでの独裁政権が打倒されると同時に、それまでの罪を問われ指名手配犯として追われることに。安は妻が経営する美容院の屋根裏に身をひそめる。一方、安の娘ソニは父親の罪を全く知らず、大学に進学していた。
 1980年代、全斗煥による軍事政権下では民主化運動は暴力によって統制されていた。反政府活動弾圧機構の中枢に実在し、長らく潜伏した後1999年に自首した李根安という男が本作の安のモデルだそうだ。しかし他の部分は殆どがフィクションで時代背景や場所も明言されることはない。ある組織に忠実に仕え、自分にとっての精神的「父」を守り続ける男と、父親の実像を知り人生を狂わされていくその娘の物語。
 父親は自分がやったことは組織を守るため、正義の為であると信じ、自分を取り囲む状況や組織が自分を切り捨てたことを認めようとしない。彼はどんどん自分の妄想の世界に入っていく。対して娘は父親の真実を知ろうとし、彼を拒む。お互い反対のベクトルに進んでいく2人の姿が、安のパートとソニのパートと交互に語られていく。父親が自分が思っていたような立派な人ではなかった、残酷で恥ずべき行いをした犯罪者だったと知り、苦しみつつも父親の呪縛から逃れようとし続けるソニの姿は、時に弱く愚かだが、徐々に力強さを増していく。彼女は父親の行為、その行為の被害者と向き合ってく勇気があったが、肝心の安にはそれはなかった。そして案の妻にもそれはなかったのかもしれない。夫婦で同じ夢を見ていたのか、その夢が2人を繋いでいたのか。ごく短い最終章にはソニならずとも勘弁してと思うだろう。
生姜(センガン)
千 雲寧
新幹社
2016-05



ペパーミント・キャンディー [DVD]
キム・ヨジン
アップリンク
2001-03-23