ノルウェーの科学者によって生物を縮小化する方法が発見され、身長180㎝の人間なら13㎝まで小さくなることが可能になった。環境破壊や食糧問題を解決する方法として注目され、各国で「ダウンサイズ」を選ぶ人々が徐々に増え、ダウンサイズされた人たちが暮らすコロニーも各地に建設されていく。ネブラスカ州オマハに暮らすポール・サフラネック(マット・デイモン)は少ない貯蓄でも豊かに暮らせるというダウンサイズされた世界に魅力を感じ、妻オードリー(クリステン・ウィグ)と共にダウンサイズを決意。しかし土壇場でオードリーは逃げ出してしまう。監督はアレクサンダー・ペイン。
 生物縮小技術によって人口増加による環境破壊を防ごうというのが話の発端なので、SF的な要素を含む話なのかなと思っていたら、予想外の方向に転がっていく。ダウンサイズはあくまで入口であって、そんなに大きい要素ではないと思う。ペイン監督作品の中では最もユーモラスなのでは。
 ポールは目新しい技術を知ったり、有名人に出会ったりすると、てらいなく「すごい!」と感心する単純で直な性格だ。またお人よしで「すごい!」と思った物事や人には影響されやすく流されやすい。ポール自身は平々凡々でこれといった資産もキャリアもなく、医大を退学せざるを得なかったというコンプレックスが少しある。自分は平凡で何者でもないと感じているからこそ、「何者か」である有名人に惹かれるのかもしれない。そこで変にひねくれたりしないところが、ポールのいい所なのだ。相手に流されやすいというのは、相手を肯定しているという側面もあるんだなと彼を見ていると思う。
 また理学療法士をしてたポールはお人よしと揶揄されるくらい、基本的に誰かの役に立ちたい人で、そのために自分のスキルを提供することにためらいがない。それだけで立派だと思うけど、当人としてはそれだけでは「何者かになった」気がしないんだろうなぁ。
 このポールの素直さ、流されやすさが、彼を予想もしなかった境地に連れて行く。彼を引っ張っていくのは東欧から来た商人であるドゥシャン・ミルコヴィッチや、インドネシアの活動家ノク・ラン・トラン(ホン・チャウ)等、アメリカ人ではなく外から来た人たちだ。一旦は文字通りの小さな世界に収まっていたポールが、街を越えコロニーを越え国境を越えていき、どんどん世界が広がるという爽快さ。視野が広くなるというよりも、どう流されても自分は自分であり続けるのだと確認するための旅みたいだ。流されるのも悪くないかもしれない。

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