エルモア・レナード著、村上春樹訳
 御者のメンデスとその雇われ人である「私」アレン、17歳の娘マクラレン、インディアン管理官のフェイヴァー夫妻、無頼漢のブライデン、そしてアパッチに育てられたと言う噂の「オンブレ(男)」ことジョン・ラッセル。彼らは駅馬車に乗り、次の街までアリゾナの荒野を走っていた。しかし賊に襲われ、ファイヴァー夫人が人質にとられてしまう。
 レナード作品を村上春樹が翻訳って、相性どうなの?(とは言え村上春樹は翻訳者としてはそんなにクセを出さないし腕はいいんだと思うけど)と思っていたが、意外と違和感ない。本作はレナードがいわゆる「レナード・タッチ」を獲得する前の初期作品、しかも西部小説でミステリや犯罪小説と雰囲気がちょっと違うという面が大きいからだろう。乾いた低温度のタッチで、ごつごつしていると言ってもいいくらい。ラッセルの行動とこの文体とがマッチしており、とても良い。
 ラッセルは白人社会とアパッチの両方に足を置く(どちらにも完全には所属出来ないということでもある)一匹狼的な人物で、一見非情な振舞い方に見える。しかし窮地に陥った時、割に合わなくても人としてやるべきことをやらざるを得ないという姿が鮮烈。そりゃあ「私」も語り継ぎたくなるな!併録の『3時10分発ユマ行き』にも同じような倫理で動く人物が登場する。一見頭が固くてつまらない生き方に見えるかもしれないが、人間かくありたいものです。なお『3時10分~』は2度映画化されているが、2007年公開『3時10分、決断のとき』(ジェームズ・マンゴールド監督)は私にとってのかっこよさが詰まっており大好き。

オンブレ (新潮文庫)
エルモア レナード
新潮社
2018-01-27


3時10分、決断のとき [Blu-ray]
ラッセル・クロウ
ジェネオン・ユニバーサル
2013-12-20