アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳
 クリスマス目前でにぎわうヘルシンキのホテルの地下で、ホテルの元ドアマンの死体が発見される。クリスマスパーティーにサンタクロース役で登場するはずだった男は、サンタの衣装のままめった刺しにされていた。捜査官エーレンデュルは捜査を進めるうち、男の意外な過去を知る。
 クリスマスシーズンで世の中が浮き立っているが、妻とはかなり前に離婚して独り身、娘とはぎこちなく(シリーズ1,2作目で経緯が描かれる)息子とは疎遠なエーレンデュルは所在なさげ。部下に気を使われ、各方面から「クリスマスはどう過ごすんですか?」と何度も聞かれるというもはや反復ギャグのようなやりとりがおかしい。エーレンデュル、自宅に帰るのも気が進まず事件現場のホテルにそのまま泊まってしまうのだからよっぽどである。でも自分では絶対所在なさを認めないのだろう。彼の頑固さと独特の陰気さが魅力となっている奇妙なシリーズだ。
 彼の感じる自分とクリスマスとの無縁さは、被害者が感じていたものでもあるのかもしれない。また、エーレンデュルの過去の傷と、被害者の過去、そしてもうひとつの事件とが呼応していく。共通するのは家族の繋がりの危うさと断ち切れなさだ。すっぱりと諦められれば楽なのに、何で手放せないのかという。登場人物それぞれを、過去から続く傷がすこしずつ浸食し続けているようで痛ましい。

声 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン
東京創元社
2018-01-12


緑衣の女 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン
東京創元社
2016-07-10