南フランスのラ・シオタで映画の撮影に臨む老齢の俳優ジャン(ジャン=ピエール・レオ)。しかし共演者の不調で撮影が延期されてしまう。ジャンはかつて愛した女性ジュリエット(ポーリーヌ・エチエンヌ)を訪ねて古い屋敷にやってくる。既に空き家となった屋敷では、近所の子どもたちが映画撮影をしていた。ジャンも俳優として撮影に加わることになる。監督は諏訪敦彦。
 事前に思っていたのとは別の方向に話が転がるのであれっ?と思ったけど、予想とは違う良さがあった。渋い老人映画かと思っていたら、思いのほか子供映画であり、夏休み映画であり、何より映画の映画である。夏のキラキラした光と色彩がまぶしく(トム・アラリの撮影がいい)、できれば夏休みシーズンに見て気分を盛り上げたかったなぁ。
 冒頭、死にいく人を演じるジャンに対して監督が「死は穏やかのもの」と言うが、それは監督がまだ若いからで、死がそこそこ他人事に感じられるからだろう。もう人生の終盤にいるジャンにとっては、「穏やか」言えるのかどうか微妙だ。彼は死は出会いだと繰り返すが、おそらく出会ってみるまで何だかわからない、「出会い」としか言いようがないイメージなのだ。
 ジャンは実際、ジュリエットという死者と出会う。それは自分の死のリハーサルのようにも見える。実際、ジュリエットは彼を待っていると言うのだから。ジュリエットとの出会いと別れは、子どもたちが撮影する映画の中で更に反復される。死者との出会いと別れを経て最後にジャンが披露する演技は、冒頭のものよりもきっとよくなっている。
 一方、子どもたちにとっての死者は幽霊であり、ゴーストバスターズが退治するものだ。ジャンのセンチメンタリズム等入る隙がない。ジャンの思い出に対して子どもたちは無頓着だし、全然別の世界で生きているようでもある。しかしそこがいい。彼らの傍若無人さに対して、ジャンも自由きままな演技で返していく。子どもによるしっちゃかめっちゃかな指示を無視して演じるジャンに、子どもたちが「演技指導」する、その指導の内容が徐々に具体的になっていく所など愉快だった。子供はわかってくれない!しかし瞬間的に老人とすごく近い位置にいるように見える。

不完全なふたり [DVD]
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
ジェネオン エンタテインメント
2008-02-08