婚約中のカップル、尚志(佐藤健)と麻衣(土屋太鳳)。結婚式の3か月前、麻衣が原因不明の病気でこん睡状態に陥ってしまう。尚志は出勤前に病院に立ち寄る生活を始め、麻衣の回復を祈り続ける。数年後、麻衣は少しづつ意識を取り戻すが、記憶障害により尚志との記憶を失っていた。原作は書籍化もされた実話。監督は瀬々敬久。
 公開されてそこそこ時間がたっているが、劇場には結構人が入っていた。安定して売れる映画というのはこういう映画なんだなーと妙に納得。確かにオーソドックスに手堅くまとめていて面白い。またいわゆる「感動の実話!」にありがちな、過剰に泣かせようという下品さがないのはとてもよかった。
 2人の関係、また尚志と麻衣の両親との関係、尚志と職場の上司や先輩との関係など、この人とこの人はどういう関係なのかを手際よく(ちょっと説明的すぎなきらいがなくもないが)見せていく。序盤、尚志と麻衣が初めてドライブデートをするエピソードは、麻衣が尚志にとってどういう存在なのかを端的に示している。躊躇なく相席を求めたり、気軽に釣り客に声をかけるといったことは、尚志はおそらくやらない(できない)人だろう。彼女は尚志が1人ではやらないことをやる人、それによって尚志の世界を広げていく人なのだ。これを序盤で見せることで、その後なぜ尚志が麻衣を支え続けることができたのか納得できる。なにしろ「待つ」時間が長い話なので、序盤でなぜ待てたのか説得力を持たせないとなかなかきついと思う。
 また、「生まれ直した」麻衣にとって尚志は見知らぬ男であり、本当は怖かったはずだと気付いた後の彼の行動は、やはり彼にとって彼女がどういう存在であるのかよくわかるものだ。麻衣は尚志のこういう所に心を動かされたんだろうなという説得力にもつながる。他にも、尚志に対する麻衣の両親の態度の変化等、人の行動の流れが唐突にならないように、よく配慮されているなと思った。安易な悪役・憎まれ役がいない。
 ただ、回想シーンや幻影を見るシーンなど、ちょっと演出がくどいな、しつこいなという部分もあった。そこまでやらなくても言わんとすることはわかるので、もうちょっと映画を観る側を信頼してほしいんだよね・・・。




64-ロクヨン-前編 通常版DVD
佐藤浩市
TCエンタテインメント
2016-12-09