ゾラ著、國分俊宏訳
 若く美しい妻と共に田舎からパリに出てきたオリヴィエ・ベカイユは、貧しい暮らしの中、健康を害して倒れる。体は動かず、周囲からは死んだと見なされ葬儀の準備が行われるが、ベカイユの意識は依然としてそこにあった。このままでは埋葬されてしまうと焦るが。表題作を含む5篇を収録した短編集。
 『オリヴィエ・ベカイユの死』、ベカイユが死ぬまでの話なのかと思って読み始めたらいきなり死んでいる(本人の意識では死んでない)のでびっくりしたよ!当時、生きたまま埋葬されてしまった事件が実際にあったらしく、その事件に発想を得たのではないかとのこと。ベカイユは生き埋め(火葬の国でなくてよかったね・・・)になるのではと恐怖すると同時に、未亡人と見なされる妻が近所の青年に獲られてしまうのではと嫉妬に狂う。これはホラーか復讐譚かと思っていたら、思いのほか清々しい結末に思えた。しがらみを振り切ることが出来たんじゃないかなと。逆に、振り切れず拘泥されていくのが最後に収録された『スルディス夫人』。才能のある夫とそれを支える妻という構図に一見見えるが、徐々に夫が妻に浸食されていく。スルディス夫人の夫の絵の才能に対する執着は、自分が得ることが出来なかったものの代替物でもあるが、代替物が本物を越えていく様が描かれている。そして夫婦関係としては結構円満とも言えるあたりが少々怖くもある。
 ゾラの作品は構成がシンプルで文章も(訳文を読む限りでは)直線的。案外読みやすい作風だったんだなと実感した。ラストにひとオチつける、短編として座りのいい作品が揃っており面白かった。時代背景が割とはっきり描き込まれており、登場する人たちに生活感がある。金の工面に四苦八苦するエピソードが多いのも泣ける。




水車小屋攻撃 他七篇 (岩波文庫)
エミール・ゾラ
岩波書店
2015-10-17