特集上映「長編アニメーションの新しい景色」にて鑑賞。アルベルト・バスケス監督、2015年の作品。過去の大参事により多数の死者が出て、今なお環境が汚染され荒廃したある島。閉塞された島の暮らしにうんざりした少女ディンキは、友人たちと島を脱出する決意をする。彼女が気に掛けているのは、ボーイフレンドのバードボーイが一緒に来るかどうかということだ。
 登場するキャラクターは可愛らしい動物たち(ディンキはネズミ、バードボーイは名前の通り鳥、ディンキの友人はキツネとウサギだ)だが、世界観は結構ハードなディストピア。未来の見えなさからか、大人も子供もドラッグ漬け。海に囲まれているが魚は獲れず、廃墟にはストリートチルドレンやホームレスがたむろっている。警察官はいるものの、拳銃を見せびらかすような奴らで、容疑者の逮捕ではなく射殺が目的だ。空を飛べるバードボーイは、ドラッグの運び屋と思われており、警察からずっと狙われているのだ。またビジュアル面もポップでとっつきやすく、水中や森の中の描写などは絵本のように美しいのだが、その一方で血や肉体破損の描写も意外とある。ポップな絵柄の中にも不穏な空気が満ちており、グロテスクなものが立ち現れてくる。
 バードボーイには一切台詞がないのだが、彼が心身ともに弱っていることはよくわかる。飛ぶ恐怖から逃れる為にドラッグを手放せず、ドラッグにより更に衰弱していく。彼が囚われているのは飛ぶことそのものへの恐怖というよりも、自分の父親が起こしたとされる事件への恐怖、ひいては自分の中にも同じような魔物(的な何か)が潜んでいるのではないかという恐怖だ。
 魔物的なものとの戦いは、バードボーイだけではなく、漁師をしている子ブタや、ディンキの友人のウサギも直面する。魔物が一線を越えさせようとする時、踏みとどまる強さを一人一人が見せてくれることが、未来などなさそうな世界に少しだけ光を注ぐ。
 バードボーイは島の秘密(この部分、ちょっと『風の谷のナウシカ』的な世界観だと思った。こういうのが最早スタンダードということかな)、鳥たちの秘密を知り、恐怖と立ち向かう。彼はディンキたちを、ひいては父親との思い出や島そのものを守ろうとするのだ。ラストは切なくも美しい。



21世紀のアニメーションがわかる本
土居伸彰
フィルムアート社
2017-09-25