エルモア・レナード著、高見浩訳
 富豪のロビン・ダニエルズは人間を撃ちたいという欲求に駆られ、あるギャングの射殺をもくろむ。ボディーガードとして雇われた元警官のウォルター・クーザは彼のアイディアに巻き込まれていく。刑事のブライアン・ハードとダニエルズに取材していたライターのアンジェラ・ノーランは、彼の異常性に気付き周囲を探り始める。
 レナードの作品は読んでいる間は軽妙で楽しいのだが、読後に強い印象が残らないというか、すっと消化されてしまう印象がある。しかし本作は深い余韻を残す。ダニエルズは自分の欲望について、何を欲するのかということは自覚していても、それが何によるものなのか、なぜ自分はそれを欲するのかを理解していない、というよりもそういう発想がない。やりたいことをやるだけなので、発言も行動もふらふら変わってしまう、そのことに疑問を持たないというパーソナリティのように思える。はたからみると不可解だし不気味。悪徳警官ではあるが常識人のウォルターは、徐々に彼についていけなくなる。ダニエルズの計画は穴だらけなのだが本人自信満々な所が、逆に怖い。
 一方、ブライアンとアンジェラは2人ともまともな常識人だが、あっという間に恋に落ちる「落ち方」が何やら可愛らしい。2人のやりとりには、軽快だがお互いへの対等な尊重が感じられる。それだけに、ブライアンが一線を越えて進む終盤が染みる。

スプリット・イメージ (創元推理文庫)
エルモア レナード
東京創元社
1993-04




追われる男 (文春文庫)
エルモア レナード
文藝春秋
1995-06